正直、お笑いのことはからっきし、わからない。いつからか肩肘張った印象のM-1グランプリですら、あまり熱心には見てこなかった。
今のお笑いを「分からへん」と言ってきっちり審査員を引退したオール巨人師匠くらい、お笑い脳は、古臭いかもしれない。でもそんな筆者ですら、この人はすごいなと思うお笑い芸人がひとりだけいる。
DMM TVで全6話が配信されているコントドラマ『インシデンツ2』でも強烈な印象の
みなみかわ
である。“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、解説番組での共演エピソードを交えつつ、『インシデンツ2』のみなみかわを読み解く。
「芸人へのトラウマ」が“リスペクト”に
もうかなり前だけれど、とある映画上映イベントに登壇したときのエピソード。
司会のコンビ芸人による酷いイジり方に閉口したことがある。
以来、芸人と直接対面するのが、ちょっとしたトラウマになってしまったくらい。
単に巡り合わせの悪さだったと気づくのはずっと後になってから。優れた技巧に裏打ちされた才能ある芸人だとこうも違ってくるのかと、今度は、感嘆することに。
筆者がゲストに呼ばれて出演したのが、東映作品について解説する『東映シアターオンライン』という番組。司会は映画好き芸人でも知られる、
元「ピーマンズスタンダード」のみなみかわさん(以下、敬称略)。
同番組出演を契機に、トラウマはリスペクトに変化したのだが……。
イジり方が「雲泥の差」だった
同じ芸人といっても、イジり方が雲泥の差。芸人たる者、イジりにどうエッジをきかせるかが腕の見せどころなのかな。同時に品性が問われる瞬間でもあると思う。
みなみかわの場合、相手が話しやすくなるための配慮をまっさきに感じた。
かといって変にソフトタッチになるでもなく、
全体としてテンダーな後味を残す持続的でメロウなイジり方。
無類の任侠映画好きでありながら、昭和を代表する鶴田浩二をあえてイケメンの観点から語るなどという、筆者の無謀な解説の味をどう引き立ててくれたか。
加藤泰監督作『明治侠客伝 三代目襲名』(1965年)の鶴田が暖簾越しに上目使いになる瞬間にいかに萌えるかなど、
クセ強解説に対して、率直なツッコミを入れながら、したたかな伏線とする。
興奮気味の筆者のちょっとした仕草もさっと拾い上げて笑いに変える。解説の間合いが弛緩すれば、キュッと玉結びでもするように、再び引き締めてもくれる。
以来、完全にみなみかわファンに
あら不思議。気づけば、すべてはしめやかに回収されている。
こちらがどんだけ好き勝手に話して散らかし放題でもすべてを委ねられる安心感。
どんとこい。たゆまぬイジりと舌鋒鋭いコメントの掛け合わせで、現場はどんどん活気づくし、テンポいい司会運びは、何より話しやすい。
最近はバラエティ番組に引っ張りだこというのに、
得意満面のおごりはこれっぽっちもない。
収録直後の雑談にも応じ、これをこうしておけばよかったかと反省点まであげる謙虚さ。
楽屋でも態度は変わらず。
「共演してみないとわからないこともあるんだなぁ」と、しみじみ思いながら、完全にみなみかわファンになってしまっているのだけれど、べた褒めすべきはまだ他にもある。
『インシデンツ2』のみなみかわが滅法面白い
客観的に見ても、彼は一流の芸人であることがわかったのが、
佐久間宣行プロデュースによるコント番組『インシデンツ2』だ。
待望のシーズン2ということで、過激度マックスの“脱法”コントは、限界突破の勢い。
と思ったら、第1話は、伊藤健太郎がとことんついてない自分について語り倒す「続 ついてない男」を除いて、そんなに面白くもないかなと思いながら見ていた。が、
続く第2話冒頭、みなみかわの本格登場によって空気が一気に変わった。
「オフ会の5人」と題されたコントの途中、回想的に挟み込まれるみなみかわパート。
彼が宗教の教祖に扮するだけでもう笑える。
修行のあと、弟子との間で繰り広げるまさかの童貞教祖トークの破壊力たるや。「かが屋」の賀屋壮也演じる弟子からイジられる教祖が繰り出す念力。弟子は、「めちゃくちゃ才能あるんすよ……。ただ、モテない!」とバッサリ。「なんで比例しない?」と食い気味にツッこむみなみかわの怒涛のイジられ的なキャラの濃さが、滅法面白い。
さりげなくも強烈なミッドポイント
本作は、最初こそ関連性がないかに見える数珠繫ぎコント集だが、第2話から、伊藤健太郎がオフ会で集めたメンバーによるまさかの銀行強盗計画を主軸にプロット展開する。
なるほど、今どき真っ向から銀行強盗を描くなんて、必ずしもリアリティを担保する必要のないコントくらいにしか確かにできないかもしれない。アル・パチーノ主演の『狼たちの午後』(1975年)さながらに、無計画な即席銀行強盗チーム「インシデンツ」が決行するのが、第4話冒頭。
コントならでは。首尾よくいくはずがない。「さらば青春の光」のふたりのかみ合わないチームワークによって、予期せぬ立てこもり事件に発展する。
行内に集めた人質相手に、精神統一の呼吸法を教授する教祖みなみかわ……。
ともあれ、
このマルチプロットのコントの折り返しは、みなみかわが放つ一発の銃声だということは最後に強調しておきたい。
クエンティン・タランティーノ監督作『ヘイトフル・エイト』(2015年)で、唐突に血反吐を吐く衝撃的なカート・ラッセルのように、さりげなくも強烈なミッドポイントを打つという才人の技をどうかご堪能あれ。
<TEXT/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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