1年前は青学大のレギュラー争い 一夜にして全国区となった西川史礁が描くシンデレラストーリー

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1年前は青学大のレギュラー争い 一夜にして全国区となった西川史礁が描くシンデレラストーリー

3月7日(木) 12:30

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京セラドーム大阪の場内にガンズ・アンド・ローゼズの『ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル』が鳴り響く。1980年代のハードロックに、「大学生にしては渋い選曲だな」と思わずにはいられなかった。

右打席に入ったのは、身長182センチ、体重87キロとたくましい肉体を誇る20歳の西川史礁(みしょう)。青山学院大の新4年生ながら、侍ジャパントップチームに飛び級で呼ばれたスラッガーである。

西川史礁の活躍に侍ジャパン・井端弘和監督も「並の大学生じゃない」と絶賛したphoto by Kyodo News

西川史礁の活躍に侍ジャパン・井端弘和監督も「並の大学生じゃない」と絶賛したphoto by Kyodo News



だが西川によると、登場曲は自身のリクエストではなかったという。それどころか、西川は「BGM自体、まったく聞こえていませんでした」と苦笑交じりに明かす。西川はこの日の試合について、こんな表現も用いている。

「夢か現実かわからないくらいの舞台に立たせていただきました」

【2安打&好捕の大活躍】それでも、西川の集中力は研ぎ澄まされていた。4対0とリードして迎えた、6回裏二死一、二塁のチャンス。自分がやるべきことをはっきりと認識していた。

「どんなピッチャーに代わっても、初球からスイングをするということが自分の持ち味であり、毎打席考えていることなので。あまり考えすぎず、シンプルに初球から振っていこうと考えていました」

西川が打席に入る直前、投手がフランクリン・ファンフルプに代わっていた。右サイドハンドから腕を振る変則フォーム。右打者からすると、思わず腰が引けてしまうような嫌なタイプだろう。

それでも西川は初球のスライダーに反応し、前寄りのポイントでとらえる。打球はきれいに三塁線を抜けていき、二塁走者の坂倉将吾がホームに還ってきた。

西川は「金子誠コーチからデータをいただけた」とこともなげに語ったが、考えれば考えるほどすごみを感じる一打だった。プロの打席にも立ったことがない大学生が、初見の外国人変則右腕の初球から変化球を振りにいけたこと自体が驚異に思えた。

3月6日、京セラドーム大阪で開催された侍ジャパン対欧州代表の強化試合。試合前には今回の目玉だった宗山塁(明治大4年)の右肩甲骨骨折が判明するという、ショックなニュースも流れた。

だが、この日は大学生野手としてもうひとり招集された西川が、まばゆい輝きを放ってみせた。

5回裏に塩見泰隆(ヤクルト)の代走で途中出場すると、直後の6回表の守りでは、マレク・フルプが放ったセンター後方の大飛球をフェンスにぶつかりながら好捕。この日スタンドを埋めた2万7698人の大観衆から喝采を浴びた。

このプレーには、西川のことをよく知る大学野球ファンでも度肝を抜かれたに違いない。なにしろ西川は、昨年はレフトとしてプレーし、センターを守るようになったのは今年からという「ビギナー」なのだ。

「外野自体は去年から始めて、センターは今年からなので、まずはひとついいプレーができてよかったです。だいぶセンターにも慣れてきました(笑)」

フルプの鋭いスイングを見て、「いつもより深く守ろう」とポジショニングを変えた。落下点まで一直線に駆ける足運びは、まるで熟練の外野手のようだった。

このプレーで勢いに乗った西川は、その裏に前述のタイムリー二塁打を放つ。さらに8回裏に回ってきた2打席目では、左腕のルイス・ルゴの144キロのストレートを引っ張り、三遊間を抜いている。この打席もまた、ファーストストライクだった。

【1年前はレギュラー争い】5対0と快勝した試合後、西川はヒーローインタビューでお立ち台に上がり、そのあとには鈴なりの報道陣を前に囲み取材を受けた。

「ファンのみなさまが大声援を出してくださって、いつも以上の力が出せました」

その極めて丁寧な言葉づかいに、西川の緊張ぶりが伝わってきた。

最後に西川に聞いてみた。1年前の今ごろを思えば、別世界にいるような感覚なのではないか......と。

西川はニッコリと笑い、こう答えた。

「そうですね。(大学)1、2年では試合に出られず悔しい思いをしたからこそ、3年生になって『このままじゃダメだな』と感じて、例年以上に練習を積み重ねて、今こういう舞台に立てているので。『やってよかったな』と感じます」

1年前の今ごろ、西川は青山学院大のレギュラー奪取をかけて猛アピールをしていた。龍谷大平安高時代は通算8本塁打と突き抜けた数字は残せず、本人も「いるかいないかわからないような選手」と振り返るような存在だった。青山学院大でも2年間は鳴かず飛ばずの時期を過ごし、昨春にようやくレギュラーを奪取したばかり。

それからわずか1年で若手主体の強化試合とはいえ、侍ジャパンのトップチームで大活躍するなど誰も予想できなかったに違いない。

井端弘和監督は試合後、西川の活躍について「緊張があるなかでファーストスイングから振れたことと、ファウルにならずに飛んでいくところは並みの大学生ではないなと思いました」とコメントしている。

この日の活躍がなかろうと、西川の「ドラフト1位候補」という評価は揺らがなかっただろう。一夜にして全国区の知名度を得た西川は、これからどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。そして、「大学野球にこんな逸材がいたのか」と初めて知った野球ファンも多かったはずだ。

シンデレラストーリーの行方を見届けるために──。今春以降、ひとりでも多くの野球ファンが東都大学リーグの試合へと足を運び、西川史礁のフルスイングを堪能する光景が見られるかもしれない。

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