岩隈久志がメジャーで感じた「文化の違い」と少年野球の指導者として大切にしていること

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岩隈久志がメジャーで感じた「文化の違い」と少年野球の指導者として大切にしていること

1月29日(月) 10:40

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岩隈久志インタビュー後編

(前編:近鉄消滅後に楽天を選んだ理由「人として育ててもらった」仙台での思い出>>)

プロ野球やメジャーリーグで活躍し、現役引退後はマリナーズの特任コーチを務める傍ら、2022年3月に青山東京ボーイズのオーナーを務めながら指導も行なっている岩隈久志氏。インタビュー後編では、マリナーズでの新たな挑戦や巨人時代、指導者視点から思う野球人口の減少などを語った。

「青山東京ボーイズ」でノックを行なう岩隈氏photo by 若林秀樹(スタジオディーバ)

「青山東京ボーイズ」でノックを行なう岩隈氏photo by 若林秀樹(スタジオディーバ)





【「結果が出ないとすぐに解雇」のメジャー挑戦】昨年は侍ジャパンがワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)で3大会ぶりに世界一を奪還したほか、大谷翔平がMLBで日本人初の本塁打王を獲得してドジャースと超大型契約を結ぶなど、野球界に明るい話題が多い1年になった。

「まさに"野球の年"と言ってもいい盛り上がりでしたね。そんな今こそ、子どもたちに野球の楽しさを知ってもらいたいと思っているんです」

2009年のWBC第2回大会で決勝のマウンドを任され、勝利を手繰り寄せた岩隈久志は今、中学硬式野球チーム「青山東京ボーイズ」のオーナーに就任し、将来の野球界を担う子どもたちの指導にあたっている。

「少しでも『野球の裾野が広げられたら』と思って指導を始めましたが、毎日楽しく過ごしています。日々成長していく子どもたちの姿を見守ることも楽しみになりましたね。日本人選手の活躍でメジャーリーグも身近な存在になりましたし、子どもたちには失敗を恐れずにさまざまなことに挑戦してもらって、自身の成長につなげてほしいです」

岩隈自身も2012年に、海外FA権を行使して海を渡った。新天地に選んだマリナーズでは、スプリングトレーニングから持ち味である安定した投球を披露したものの、開幕ローテーション入りは果たせず。当初は、相手にリードを許した場面でのロングリリーフとして起用された。

「僕にとって、より有意義な野球人生を過ごすための新たな挑戦でした。厳しい立場に置かれていることを受け止めながらプレーしていたので、『まずは与えられた場所で全力を尽くそう』と思っていました。一方で、『隙あらば、先発の座を...』という意欲も持ち続けていていました。すると、夏頃に初先発のチャンスが巡ってきたんです」

現地時間7月2日のオリオールズ戦でメジャー初先発を果たし、4回に逆転の3ランを許したが5回3失点。その後も先発投手として起用され、シーズンの後半戦だけで8勝(シーズン合計9勝)を挙げた。

「日本でプレーしている時は、心のどこかに『ケガが治れば、すぐにまた先発ローテに入れてもらえるだろう』という安心感がありましたけど、メジャーリーグでは結果が出ないとすぐに解雇されてしまう。先発ローテを必死に勝ち取ったり、『このポジションを渡したくない』という思いで投げたりと、すばらしい経験ができました」

その後、6年で3度二桁勝利を挙げるなどマリナーズの主軸投手として活躍し、2013年にはダルビッシュ有(当時レンジャーズ/現パドレス)と共にオールスターゲームに選出。そして、日本の多くのファンも歓喜したのが、2015年8月13日のオリオールズ戦で達成した自身初のノーヒットノーランだ。

「実は、あの日はボールが荒れていて、あまり調子はよくなかったんです。でも逆に、そのおかげで相手バッターに球種を絞られずに済みましたし、チームメイトも必死に守ってくれた。さまざまな要素が重なり合わないと実現しないことですから、ものすごくうれしかったです」

【日本球界に復帰。巨人でのリハビリ生活】日米通算170勝の白星を積み重ね、37歳で迎えた2018年のシーズンオフ、岩隈は「現役最後の日を迎える瞬間まで全力を尽くしたい」という思いで、日本球界への復帰を決断。移籍を決意したのは、「組織面や選手間の人間関係など、さまざまなところに伝統の重みを感じた」という巨人だった。

「メジャー行きの前にプレーしていたパ・リーグの2球団とは異なる、"大人の雰囲気"が漂うチームでした。たくさんのファンが応援してくださる人気球団で過ごしたこの2年間も有意義でした。1軍で活躍できたら、より大きな反響があるんでしょうね」

前年に右肩を手術した岩隈の日本球界復帰1年目は、リハビリからスタートした。そんな日々は、「若手選手と一緒に汗を流しながら一軍を目指して過ごした日々は、僕の人生の中でかけがえのないものだった」という。神奈川の川崎市にあるジャイアンツ球場を訪れる熱心なファンもおり、復帰を目指して調整を続けていたが......。

巨人がセ・リーグ優勝を成し遂げ、日本シリーズに向けて調整を続けていた2020年の秋。岩隈は実戦復帰を目指してシート打撃に登板したが、その時に肩を脱臼。このケガをきっかけに、一軍での登板が叶わぬまま引退を決断することになった。

「ケガの影響でまったく投げられなかったことは本当に残念でしたが、自分で引退を決めることができましたし、悔いのない野球人生を過ごせたと思っています。もしかしたら、『巨人に何をしに行ったの?』と言われてしまうかもしれませんね。それでも華やかなセレモニーで送り出していただいた、ジャイアンツのみなさんには感謝しかありません」

【メジャー時代のチームメイトに学んだ「野球を楽しむ姿勢」】引退後のプランについては「特に考えていなかった」そうだが、「一度はグラウンドの外から野球を見たほうがいいんだろうと漠然と思っていた」という思いから、マリナーズの特任コーチに就任。プロの現場に関わりながら、少年野球チームの指導にあたっている。

近年は、「子どもの野球離れ」が加速していると話題になることが多くなった。少子化の影響もあるだろうが、公益財団法人「笹川スポーツ財団」による調査によれば、2001年に約282万人だった10代の野球人口は、2021年には約137万人に半減したとされている。



それを受け、岩隈は次のように熱意を語った。

「単純に若い世代の人口が減っている影響かもしれませんが、野球が楽しめなくなって途中でやめてしまう子もいるのかもしれない。細かい数字はわかりませんが、僕にできることは、野球の楽しさを子どもたちに伝えることしかないと思っています。野球が上手になればもっと楽しくなって、続けてもらえる可能性が高くなる。そういったことの積み重ねで、結果的に野球人口を増やすことができたらいいですね」

続けて、これまでの指導で見えてきた「少年野球の課題」についてもこう指摘した。

「今は中学生の指導をしていますが、『これまで、ずっと怒られながら野球をやってきたのかな』と見えたり、必要以上に失敗を恐れている子が思った以上に多いと感じます。とても残念な気持ちになりました。日本では日々の練習や技術の上達が優先されがちですが、そんな中で、純粋な野球の楽しさを伝えていくことが僕の役目だと思っています」

岩隈が思い出すのは、メジャーリーグ時代にアメリカで出会ったチームメイトが、毎日のように明るく野球を楽しんでいた光景だという。

「メジャーリーグに行ってから最初に驚いたのは、日本との文化の違いでした。試合前のロッカールームでチームメイトが大音量で音楽を流しながら踊っていたり、ビリヤードに熱中していたり......。でも、ユニフォームに着替えた途端に、彼らの表情は一変するんです」

そんな彼らから学んだのは、「野球を心の底から楽しむこと」だという。

「もちろん結果が求められる厳しい世界ではありますが、そんな状況も忘れてしまうくらい、全力で野球を楽しんでいるチームメイトの姿が印象に残っていて。日本の子どもたちにもとにかく楽しんでもらいつつ、かつメリハリをつけて野球に取り組んでもらいたい。

2022年3月に立ち上げた青山東京ボーイズで、これからも子どもたちと一緒の時間を共有しながら、さまざまな形で野球の楽しさを広めていきたい。そんな気持ちで、成長を見守っています」

そう意気込む岩隈の顔は、グラウンドに射す陽の光に照らされて輝いていた。

【プロフィール】

岩隈久志(いわくま・ひさし)

1981年4月12日生まれ。1999年にドラフト5位で近鉄に入団。2年目に初勝利、2003年に15勝を挙げるなどエースとして台頭。2005年には楽天に移籍して初代開幕投手を務めた。日本球界で通算107勝、沢村賞1度、最多勝2度など多くのタイトルを獲得。2012年にメジャーリーグのマリナーズに移籍し、7年間で63勝をマーク。2015年にはノーヒットノーランを達成した。2018年オフに巨人に移籍して日本球界に復帰し、2020年シーズンをもって現役を引退。2021年にマリナーズの特任コーチに就任。同時に、中学硬式野球チーム「青山東京ボーイズ」のオーナーを務めながら指導を行なっている。

【取材協力】(株)PACE Tokyo、秋山高志

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