宮部みゆきと京極夏彦が語った「ひとつの小説ができるまで」。N/S高生のための特別授業第4回【前編】

N/S高の学園生たちに向けて特別授業を行った宮部みゆきさんと京極夏彦さん

宮部みゆきと京極夏彦が語った「ひとつの小説ができるまで」。N/S高生のための特別授業第4回【前編】

1月23日(火) 13:54

提供:
「世の中のリアル」を伝えるをテーマに、未来に夢を抱くN/S高(N高等学校とS高等学校)の生徒たちへ向けた「学園生のための特別授業」。富野由悠季監督が登壇した第3回を経て、2023年10月24日に行われた第4回目は、直木賞作家の宮部みゆき氏、京極夏彦氏が登壇。「感動するって何だろう?」をテーマに、創作の過程や仕事に対する向き合い方など、普段なかなか知ることができない“小説家のリアル”を伝える授業が行われた。
【写真】とにかくミステリーが好きでたくさん読んでいたら、書きたくなったという宮部みゆきさん

会場にリアル参加した生徒および、ライブ配信で受講する多数の生徒を対象に行われた特別授業。その内容は、司会者や生徒から寄せられた質問に二人が一問一答の形式で答える…といったもので、創作や執筆、人生についての質問や相談も飛び交った。実際にどのようなやり取りがあったのか、授業の一部を紹介。前編では、アイデア出しから執筆まで「ひとつの小説ができるまで」をテーマにトークが繰り広げられた。

――(司会からの質問)学生時代に影響を受けた本や作家志望の人へのアドバイスはありますか?

【宮部みゆき】私は全然面白くない青春時代を過ごしていましたが、その時に大人になるための杖になってくれたのが、永井路子先生の本と佐藤愛子先生の本でした。皆さんもそれぞれに運命的な本と明日にも出会うかもしれません。今はあまり決め打ちせずに、たくさんの色々な作家や小説に出会っておくのが良いと思いますね。

【京極夏彦】僕には本の順番は付けられません。面白くない本はないですから。「この本面白くない」と思えたとしたなら、自分に読み取る力がないんだと思って生きてきました。読んだ本はどんな形であれ確実に身になってるはずで、方向性を定められないなら、手あたり次第読んでみていいと思います。自分に合わなかったらやめればいいんです。タイトルを読んだだけでも、中身を読んだのと同じような何かは感じているはずです。

――(生徒からの質問)作品のストーリーが初めて浮かぶ瞬間、どのような気持ちになりますか?

【宮部みゆき】最初にタイトルが出てくるんですね。「こんなものが書きたいなあ」とまだ混沌としている時に、「ぽん!」とタイトルが出てくると同時にストーリーが見えてくるんです。そういうことが起こった日は、超ハッピーですね。

【京極夏彦】僕はタイトルも構造もすべて一遍にできます。僕の小説にはストーリーがないんです。プロットはあるんですが二次元で表現することができないので、プロットを作る暇があったら、書いたほうが早いんです。ただ長い作品は、出力に時間がかかるだけです。必要な情報を選択し、その情報を構造に合わせて並べ、それが終わった段階で、タイトルも内容もすべてできる。あとはひたすら出力するだけですから、面白くも何ともないです。

――(司会からの質問)それでは次のテーマ「ひとつの小説ができるまで」。アイデア出しから執筆まで、小説が読者に届くまでの過程をお願いします。

【宮部みゆき】こういう時は失敗するケースをお話したほうが分かりやすいと思います。これまでにお蔵入りしている長編が3本ありますが、その全部に共通の理由があります。それは、どこから書くかを間違えているんですね。誰の目から書くか、スタート地点をどこにするのか…、それを決めないと書き始められないんですね。書き進めてから「出発点を間違えた!」となると途中から直せないので、お蔵になるんです。

【京極夏彦】僕は極めてシステマチックに作るので、迷うのは「ここの漢字をひらくべきか」「異体字を使うべきか」「改行のときに出来る隙間が何かカッコ悪くないか」とか、そういうことだけですね。それはデザインとしてではなく、意味としてです。隣の行に凄いことが書いてあるのが、0.2秒でも先にわかっちゃうのとわからないのとでは読み味が違うじゃないですか。

――(生徒からの質問)作品に登場するキャラクター設定で心がけていることは?

【宮部みゆき】江戸の市井ものだと、人の名前って限られているんですね。お吉ちゃん、お美代ちゃん、店はみんな越後屋。連載で書いているときはいいんですけれど、いざ一冊にまとめた時に同じ名前がばんばん出てきてしまうので、ちょっと変えなければならないんです。今の私には、名前被りというのが一番の問題ですね。

【京極夏彦】僕の場合は先ほども言ったように構造が先にあるから、キャラクターは構造を支える部材にすぎなくて、名前なんかどうでもいいし、キャラクターは使い勝手がよければそれでいいって感じですね。「使いにくかったら殺せばいいや」くらい(笑)。それでも何とか面白く読めるように工夫してはいるんですが。

――(生徒からの質問)小説家をやっていて、一番しんどかったことはありますか?

【京極夏彦】僕は小説家になってから今日まで、一日たりともしんどくなかった日は……「ない」です。

【宮部みゆき】親しい方とお別れするのはいつも辛いですが、井上ひさし先生が亡くなったとき、追悼エッセイを依頼されて。訃報を聞いてから数時間で書かなければならなかったのも辛く、泣きながら書いていました。

速記者と法律事務所勤務という二足のわらじを経て、小説家デビューを果たした宮部みゆきさんと、小説家になろうと思ったことは一度もないという京極夏彦さん。対照的な二人の作家の言葉に、生徒たちは熱心に耳を傾けていた。後半では、本題となる「感動するって何だろう?」について、白熱したトークを繰り広げていく。




【関連記事】
「子供たちを馬鹿にしちゃいけない」ガンダムの生みの親・富野由悠季監督が生徒たちに熱弁したワケ
「ガンダム」アムロ役の声優・古谷徹による特別授業!N/S高生に “自分”を輝かせる秘訣をアドバイス
「コミュニケーションは鳴き声に近い?」言語学者・金田一先生がN/S高生にアドバイス!豪華講師陣による特別授業スタート
【漫画】「機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島」を読む
【漫画】「逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」を読む
Walkerplus

国内・経済 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ