日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』!各国の映画祭で称賛されたダーク・ファンタジーSFと、巨匠ウディ・アレン監督によるスペインの映画祭を舞台にしたコメディ!***『VESPER/ヴェスパー』
評点:★3.5点(5点満点)
© 2022 Vesper - Natrix Natrix, Rumble Fish Productions, 10.80 Films, EV.L Prod
オリジナリティ溢れるバイオなディストピア世界オリジナリティ溢れる未来の情景を描き出したユニークなディストピア映画である。
映画における未来描写にもトレンドがあり、ここ2、30年は「〈リアル〉で薄汚れていて先進的な工業機械のようなルック」が主流となっていた(うれしい例外はいくつかあるにせよだ)。それが〈リアル〉に感じられるのは、デザイン・コンセプトが既存のテクノロジーの延長線上にあるからである。
本作で描かれる未来の地球は環境破壊を遺伝子工学で食い止めようとする試みが失敗した後の荒涼たる世界で、植物や菌類が奇怪に進化する一方、動物が死に絶えた世界だ。
テクノロジーの中心はエレクトロニクスではなくバイオロジカルなものへと移行しており、今でいうところの「マシン」の内部は動物の内臓のようなものになっているほか、インターフェースも見たことのないような有機的なものになっている。
このビジョンを徹底したところに本作の凄すごみはある。ありきたりな未来像とはまったく異なる異世界は驚異の感覚を与えてくれる。
遺伝子組換え作物やバイオ人造人間をめぐる物語もそれぞれ興味深い。絵画性の高い撮影も美しく、奇怪で美しい世界に説得力をもたせることに成功している。
STORY:崩壊した地球。富裕層は城塞都市シタデルに暮らし、貧しい人々は危険な外の世界で生きていた。少女ヴェスパーはシタデルの権力者の娘だという女性に父の捜索を頼まれる。シタデルに行きたいヴェスパーは頼みを引き受ける。
監督:クリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル
出演:ラフィエラ・チャップマン、エディ・マーサン、ロージー・マキューアンほか
上映時間:114分
全国公開中
『サン・セバスチャンへ、ようこそ』
評点:★1.5点(5点満点)
© 2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
高慢な老人の愚痴が止まらないかつてオーソン・ウェルズはウディ・アレンについて「あの高慢さと小心さの合一が本当に不愉快だ。彼の高慢さには際限がない」と評し、続けて「彼が自分のことにしか興味がないことは作品が物語っている。自分自身の悩みから解放されるために、わざと自分を低く見せて笑いを取るような行為こそが、私に言わせれば世界一見苦しいことだ」と断じた。
このオーソン・ウェルズの指摘は『サン・セバスチャンへ、ようこそ』に完全に当てはまる。
アレン自身は本作には登場しないが、本作ではスノッブで浅はかでみっともない主人公の口を借りて、世の中すべてを見下したかのような鼻持ちならない台詞あるいは愚痴がとめどもなく垂れ流される。
まったくもって卑怯だと感じざるを得ないのは、そうやって何もかもを見下しておきながら「それは本作の、浅はかでみっともない主人公がそう言っているだけに過ぎないんですよ」という逃げ道を常に確保しているところで、主人公は便利な隠れ蓑、あるいは道具の立場にまで貶められてしまっている。
フェリーニやベルイマンやブニュエル、さらにオーソン・ウェルズ(!)の名画の数々を臆面もなくパロディ化した場面もすべて薄ら寒い。
STORY:妻スーの浮気を疑う作家リフキンは、スペインのサン・セバスチャン映画祭を夫婦で訪問。すると夢の中で『市民ケーン』『勝手にしやがれ』の世界に自身が登場するなど、クラシック映画に没入する不思議体験が次々と起きて........。
脚本・監督:ウディ・アレン
出演:ウォーレス・ショーン、エレナ・アナヤ、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、クリストフ・ヴァルツ
上映時間:92分
全国公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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