桑田佳祐&松任谷由実とビートルズの新曲に表れた「圧倒的な差」。過去の素材を使用しているのは同じだが…

桑田佳祐『I LOVE YOU -now & forever-』

桑田佳祐&松任谷由実とビートルズの新曲に表れた「圧倒的な差」。過去の素材を使用しているのは同じだが…

11月30日(木) 8:52

提供:
洋楽と邦楽のビッグネーム、新曲の「類似点」と「大きな違い」

ビートルズと、桑田佳祐、松任谷由実。洋楽と邦楽を代表するビッグネームが、似たスタイルの新曲を発表しました。

ビートルズの「Now And Then」は1970年代にジョン・レノンが録音したデモテープと、2001年に亡くなったジョージ・ハリスンのギターがもとになっています。AI技術を駆使してジョンのピアノとボーカルを切り離したのちに、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターの演奏を加えて、ビートルズの”最後の新曲”として全世界で大ヒットしています。

桑田佳祐と松任谷由実の豪華コラボ「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」は、1986年に日本テレビで放送されたクリスマス特番のために制作された曲。2012年リリースの桑田のソロベスト『I LOVE YOU -now & forever-』で初めて音源化され、今回ユーミンとのコラボで再び脚光を浴びることになったのです。

どちらも過去の素材をリアレンジして現代に蘇らせた点は共通していますが、しかしそこには大きな違いもあります。

ビートルズと、桑田&ユーミン。異なるアプローチについて考えてみたいと思います。

賛否両論を呼んだビートルズ「Now And Then」

まず「Now And Then」。率直に言って、よほどビートルズに思い入れのある人でなければ、良い曲だとは思えないのではないでしょうか。まるでビートルズに憧れるアマチュアフォークバンドによるオリジナル曲のようです。

伝説のバンドの最後がこれかと思うとがっかりもしますが、野球の名選手もボテボテの内野ゴロとかで引退していくことを思えば、きっとそれでいいのでしょう。

ともあれ、本題は曲の良し悪しではありません。「Now And Then」は美談で終わらず、創作上の冷徹さを突きつけたことが印象的だったのですね。ジョンのデモバージョンにあった、いくつかのコードと転調に至るまでの進行がごっそり削られていた。これが賛否両論を呼んだわけです。

確かに削られた部分は、まさにジョン・レノン風と言うべきコードのマジックでした。F#マイナーとEメジャーを繰り返したのち、C#マイナーへと展開しDメジャーへ。そこからどこへ向かうかと思えば、もう一度Eメジャーへ戻って、その後ほとんど力技でAマイナーと思しき半端なコードからBメジャーに。そして唐突にGメジャーのサビ部分が始まる。



飛躍に次ぐ飛躍。まったく接続詞を使わずに論旨が変わっていく文章のような酩酊感。あれこそがジョン・レノン、そして「Now And Then」の肝だと考えても不思議ではありません。

曲の良し悪し以上に賞賛に値する「姿勢」

しかし、それはあくまでも”ジョン・レノンのデモテープ”という条件下でこそ可能だったのです。いわば独り言のような内省と親密さでしか醸し出せない“ジョン濃度100%”の味わい。それがビートルズというバンド、そして新曲というパッケージングを考えた際に、どうしても“ささくれ”として目立ってしまう。

だから、削らざるを得なかったのですね。ジョンの息遣いが濃厚に残っているフレージングだとしても、トータルのバランスを考えれば使えない。曲の良し悪し以上に、徹底的に吟味する姿勢こそが賞賛に値するのです。

ビートルズは最後の最後までクリエイティブに関わる重大な決断をくだすバンドとしての矜持を保ったと言えるでしょう。

37年前とほぼ変わらない「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」

それを踏まえて、桑田佳祐と松任谷由実の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」は、どう聞こえるでしょうか。

https://www.youtube.com/watch?v=cLuGihfu6AM

37年前とほぼ変わらないサウンドプロダクションにアレンジ。オリジナルで桑田が「お正月」を挿入した部分に、今回はお互いの持ち歌「恋人がサンタクロース」と「波乗りジョニー」、「ルージュの伝言」を重ねるのみ。

歳月がもたらすはずの時代感覚の違いもなければ、いまの彼らなりの音楽的な技工や熟達が示されるわけでもない。ただ、37年前の曲に漫然と足し算をしているだけなのですね。

もちろん、桑田、ユーミン両者のファンには嬉しいサプライズだったでしょう。しかしながら、2023年の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」に漂っているのは、「Now And Then」のようなシビアなプロフェッショナリズムではなく、特に話題もない緩慢な同窓会のようなムードです。

企画の意図がどうあれ、桑田佳祐、松任谷由実という巨大なブランドにふさわしいコラボレーションだったかは疑問に思う出来でした。

問われているのは、音楽の質ではなく…

もちろん、これで両者の功績に傷がつくことはありません。もう十分すぎるほどの名曲を残してきました。

けれども、80歳を超えるポール・マッカートニーとリンゴ・スターが、いまもなお“新しさ”を追求して勝負しているのに比べると、なんともさびしい。37年前の音をそのまま持ってきた姿勢は、筆者には“降りてしまった”ようにしか見えませんでした。

若い人たちは、年長者の背中を見て育ちます。ビートルズの「Now And Then」は大した曲ではありませんが、それでもポールやリンゴが一生懸命、丁寧に楽器を演奏する姿は、多くの若者をインスパイアしたに違いありません。

「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」に、そういうパワーはあったでしょうか?

問われているのは、音楽の質ではなく、どのように向き合っているか、だと思うのです。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

【関連記事】
AIに音楽は作れる?ChatGPTに“サザン風”の歌詞を書かせて気づいた「人間との決定的な違い」
“神宮外苑再開発を憂う”サザンの新曲に感じた違和感。メッセージはわかりやすいが「足りなかったもの」
NHKのど自慢の“改悪”に不評の嵐。「付き合いで仕方なく行ったカラオケ」を見ているよう
人気アーティストもブチ切れ…「THE FIRST TAKE」“つまずき”を排除した音楽に感じる違和感
紅白歌合戦、旧ジャニーズはゼロだが「意外な歌手」も「斬新な試み」もナシ。もはや新鮮な“やる気のなさ”
日刊SPA!

生活 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ