「ジャニーズが好きだった自分」はギルティ(有罪)なのか?傍観者が感じる後味の悪さ

週刊プレイボーイでコラム「挑発的ニッポン革命計画」を連載中のモーリー・ロバートソン氏

「ジャニーズが好きだった自分」はギルティ(有罪)なのか?傍観者が感じる後味の悪さ

10月2日(月) 6:00

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モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、いま多くの人が抱えているであろう「モヤモヤ」への向き合い方を提唱する。



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過去に出版された告発本。2000年代前半には司法の場でジャニー喜多川氏の性加害が事実だと認定されていたこと。多くの人がうすうす知っていた、そして少し調べれば簡単に確認できたそれらのことを、大手メディアや広告代理店、スポンサー企業、そしてファンや視聴者・読者まで、ほとんどの日本人は黙殺してきました。

この「見て見ぬふり」が崩れたのは、今年3月に英BBCがドキュメンタリー番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を公開してからですが、その背景にはアメリカや西欧における潮目の変化があります。

2017年に発覚した米映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年にわたる性加害スキャンダルは世界的な「#MeToo」運動へと波及し、性加害に社会が厳しく向き合うこと、そしてそれは過去の罪にもさかのぼることがスタンダードになりました(ワインスタインは長期の禁錮刑で収監され、彼の会社も破産しています)。

ジャニー氏がすでに故人であるという特殊性はあるにせよ、ジャニーズの件もBBCはこの文脈の中で報じたのです。

9月7日にジャニーズ事務所が記者会見を開いた直後から、スポンサー企業の広告中止などの表明が相次ぎました。グローバルにビジネスを展開する企業であればあるほど、株主や消費者の厳しい目が注がれるからです。

テレビ局、広告代理店、スポンサー、ジャニーズ事務所の利害が一致し、所属タレントを寡占的に露出させ続けることで商品価値をブーストさせてきたカルテル的な(これ以上に合致する表現が思い浮かびません)従来のビジネスは、もう回らなくなる可能性が高いでしょう。

盤石かと思われた帝国がここまで急速に崩れていくのかと驚いている人は多いでしょうが、もうひとつ重要な論点があります。

「そんな噂を見聞きしたことはあるけれども、それはそれとして」ジャニーズ(所属タレント)が好きだった、あるいはテレビなどを通じてなんとなく好感を持っていた―そんな自分は"ギルティ(有罪)"なのか?という問いです。

米欧では、すでにほぼ決着がついています。性加害を含む人権侵害が絡む商品やコンテンツを享受し、消費者となることは明確に「アウト」。

今の日本でも、単なるファン・視聴者である自分に何かできたのか、仮にひとりでボイコットしたところでなんになったのか......など、多くの人がモヤモヤを抱えていることでしょう。

納得できる答えなど出ませんが、"傍観者"のだった側のひとりとして、後味の悪さは感じておくべきではないかと個人的には考えています。

また、"無色透明なアイドル"という日本の特殊な文化も変わっていくかもしれません。

ファンが常に熱狂を投影できる理想の存在であるために、恋愛はご法度、政治的な意見の表明も許されず、無理をして"非実在的"な振る舞いを続ける―これは相当に奇異なことです。

このフィクションを成り立たせることで、ものすごいお金が動き、お金が動くからこそ性加害が公然の秘密として放置されてきた面もある。そんな事実と向き合って真剣に考えてみれば、従来の熱狂型アイドルビジネスは終焉するしかない。

そして、寡占状態ではない環境下で、実力のあるタレント同士が自由競争するようになれば、日本の芸能(エンターテインメント)も少しは健全化したといえるのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)

国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

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