ロッカー・吉川晃司(57)が俳優をする理由「ボクサーがプロレスのリングに立つ背水感」

現在はスペシャルライブ・ツアー中の吉川晃司(Phot・平野タカシ)

ロッカー・吉川晃司(57)が俳優をする理由「ボクサーがプロレスのリングに立つ背水感」

8月28日(月) 15:50

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吉川晃司にとって“演じること”とは?

ロッカー・吉川晃司(57)がTBSの連続ドラマ『トリリオンゲーム』(金曜午後10時)と先月末から公開中の映画『キングダム 運命の炎』に出演している。ロッカーである吉川にとって、演じることとは何なのだろう?本人はこう答えた。

「自分とは違う性質、思考を疑似体験できるということです」(吉川)

1984年のデビュー以来、ほぼ毎年欠かすことなく新曲をリリースし、ライブやツアーに臨んできた。それでも出演を求められ、自分も作品や役柄に興味を抱き、さらにスケジュールが合うと、俳優の仕事も引き受けてきた。疑似体験が音楽づくりにプラスにもなると考えるからでもある。やるからには半端な気持ちでは撮影に臨まない。

「ボクサーがレスリングのリングに立っても、負けるわけにはいかない的な背水感があります。そんな気分になれるのも俳優をやるときの魅力です」(吉川)

刑事から外科医、人斬りまで。幅広い役柄

異業種の人が俳優をやる場合、どうしても役柄が限定されたり、役柄の幅が狭くなったりしてしまいがちだが、吉川は違う。さまざまな役柄を演じてきた。

ビール会社社長の誘拐を描いた映画『レディ・ジョーカー』(2004年)ではクセ者刑事、同『チーム・バチスタの栄光』(08年)では天才的心臓外科医、同『るろうに剣心』(12年)では凄腕の人斬り、同『秘密 THETOPSECRET』(16年)では未成年連続自死事件の黒幕をそれぞれ演じた。

また、TBS『下町ロケット』(15年、18年)では反骨のエリート・財前道生に扮し、NHK大河ドラマ『天地人』(09年)では織田信長、同『八重の桜』(13年)では西郷隆盛を演じた。

意識的に扮する役柄の幅を広くしている。吉川は「刺激が得られ、知識も広がる。音楽をやる際の自分へのお土産にもなる」と語る。仕事の選び方が俳優を専業とする人とは異なる。

『トリリオンゲーム』で見せた新たな役柄

『トリリオンゲーム』で投資家の祁答院一輝を演じたことで、また役柄の幅が広がった。祁答院は主人公の若き起業家・天王寺陽(目黒連)と平学(佐野勇斗)の将来性を買い、応援する男なのだが、伊達男でノリが軽いのだ。重厚だった信長や西郷、財前とは大違いである。

もっとも、吉川によると、西郷役にも祁答院役にも共通項がある。いずれの役柄にも吉川自身の一部が投影されているという。

「演じる際、自分の本性や生き様の軸までは崩そうとはしない、むしろ役柄を己の方に引き寄せようとしています」(吉川)

確かに『八重の桜』での吉川版の西郷はそれまでの西郷像とはやや異なり、情の人という印象が濃厚だった。素顔の吉川に近い。イメージと合わぬかも知れないが、吉川は記者の近況や体調まで気にする気遣いの人。芸能人ではかなり珍しい。

また、照れなのか本人はあまり口にしないが、被曝2世ということもあって、原爆犠牲者の慰霊コンサートに参加したり、原爆の日に広島カープの始球式に登板したりしている。吉川のルーツは広島市の爆心地の近くにあった吉川旅館だが、原爆ですべて吹き飛ばされてしまい、今は広島平和記念公園になっている。

2011年3月の東日本大震災時も宮城県石巻市に入り、住民の困り事を聞いたり、自転車修理などをやったりした。被災地に約3週間入っていた。

その4カ月後の同年7月には元BOØWYのギタリスト・布袋寅泰(61)とのユニット・COMPLEXを21年ぶりに復活させ、大震災復興支援のチャリティライブ「日本一心」を東京ドームで行なった。音楽性の違いから袂を分かった布袋とのジョイントはファンのみならず音楽界も驚かせたが、大震災から半年も経たぬうちにドームでのチャリティライブを実現させたのも常識破りだった。

「最後は自分に帰るのだという姿勢で演じている」

一方で、伊達男で軽い祁答院に近い吉川も存在する。素顔の吉川は祁答院と同じく、細かいことはほとんど気にしない。だから取材時にとやかく言われることもない。オフレコもなし。これも芸能人では少数派だ。

祁答院のような茶目っ気もある。取材中の吉川はよく冗談を口にする。笑いっぱなしで終わってしまう取材もある。修道高(広島市)水球部時代の武勇伝を笑顔で語ることもある。

何よりの茶目っ気はライブで見せるシンバルキックだろう。失敗したら大ケガをする怖れもあるにもかかわらず、ファンが期待するからやっている。サービス精神と遊び心なのである。

「役者さんたちのように良くも悪くも己を捨てて空っぽの状態から役柄になるようなことはない。最後は自分に帰るのだという姿勢で演じている」(吉川)

これが俳優・吉川の一番の魅力なのではないか。西郷も財前も祁答院も全て吉川の人格の一部が入っている。「何を演じても同じ」と言われる俳優や「どんな人格にもなれる」という俳優はよく聞くが、本人の人間性の一端を役柄に滑り込ませるという人は聞かない。だから、どんな役柄も吉川独特のものになる。

『キングダム運命の炎』では鍛え上げた肉体が躍動

もっとも、『キングダム運命の炎』は例外。吉川の人格が投影されているかどうかは不明だ。おそろしく強い武将役なのだが、人間性がよく分からないのである。ただし、水球で鍛えられた肉体が生かされている。

この武将は大きな矛のような武器で兵士を次々と倒す。現実離れしているほど強いのだが、たくましい吉川が演じると、リアリティが生まれる。観れば分かるが、まるでサイボーグだ。

吉川と同時代を生きた50代以上でないと知らないかも知れないものの、そもそも吉川のデビューは歌と俳優が同時だった。歌は『モニカ』(1984年)、俳優は主演映画『すかんぴんウォーク』(同)である。

映画は若者向けの青春物語だった。当時は少子化ではなかったから、若者向け映画が今より遥かに多く、中高生が映画館に詰めかけた。

この映画は吉川を思わせる青年が広島から単身上京するところから始まる。吉川が泳いでやって来て、東京湾から上陸するのが若者向け作品らしかった。多くの観客は不思議に思わなかった。

その青年がミュージシャンとしての成功を目指す。友情や挫折も描かれた。この演技で吉川はブルーリボン賞新人賞を受賞した。当初から演技力には定評があった。

吉川に影響を受けたあの名優も

作品の影響を受けて上京を志した中高生は少ない数ではなかったようだ。その1人が名バイプレイヤー・津田寛治(57)。作品を観た後、俳優になるため、福井市から上京したと語っている。今になって考えると、日本に勢いがあり、今より夢が持てた時代だった。

あれから39年。吉川は1987年から音楽に専念していたが、00年から再び俳優もやるように。それから23年が過ぎようとしている。俳優としての円熟期に入っていると言っていいのではないか。

吉川流の演技により、再び誰かの生き方を変えられるか。

吉川は2日にライブDVD『KIKKAWA KOJI LIVE 2022-2023 “OVER THE 9”』をリリース。4日からは『トリリオンゲーム』の撮影を続けながら、並行してツアー『Guysanddolls』に入る。コーラスとして親しい大黒摩季(53)が参加する。<取材・文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立

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