3月28日、大阪。コロンビア戦で、日本代表の久保建英(21歳)は後半14分から交代出場している。選手紹介のアナウンスでは、控え組ながら三笘薫に次ぐ歓声が湧いた。引き分けたウルグアイ戦で日本の攻撃は単調に終わり、コロンビア戦も三笘の先制点以降は鳴りを潜めていただけに、そのプレーは大いに注目されていた。
そして久保の起用で、サプライズがあった。
交代後、久保はまず20分間ほど、4-2-3-1のトップ下でプレーしていた。ライン間に入るプレーは、やはり出色。際どいスルーパスも繰り出していた。ドリブルから伊東純也とのワンツーでリターンを受け、さらに伊東に戻したパスはわずかに合わなかったが、可能性を感じさせた。
ただ、思うようにボールが入ってこない。相手の優勢のまま、逆転弾も浴びた。そうした焦りもあったのか。自陣でボールを受けて、出しどころがなく奪われてしまうなど、チーム連係の乏しさにも苦しめられていた。
コロンビア戦の後半14分から途中出場した日本代表の久保建英
注目すべきは、後半33分に浅野拓磨が交代で入った後だ。
「久保をトップ下に、攻撃の起点になってもらおうと思いました」
試合後、森保一監督はそう説明している。布陣は4-4-2の中盤ダイヤモンド型。ぶっつけ本番だった。
「(森保一監督から渡された)メモは見ていないですが、『4-4-2の中盤は菱形で』って」
久保はそう振り返っている。彼としてはレアル・ソシエダでやり慣れている布陣で、代表でも自分のものにしたいのか、即興采配を真っ向から支持していた。
「レアル・ソシエダでやっている(システムの)ポジションで、代表では"即興的ポジション"で、練習でもやったことはなかったですが、自分としては何回かボールを拾って、ゴール前に運んでいいシーンはできました。(リードされて)点をとりにいかなければならなかったし、監督に選手の力を信じてやらせてもらい、新たにやれたのはよかったんじゃないか、と」
チームとして、トライそのものは悪くはなかった。日本の選手のキャラクターを考えると、個人的にも4-4-2の中盤ダイヤモンド型は、最も合うシステムのひとつと言える。レアル・ソシエダでこのシステムの中心にいる久保の投入が、契機になったのだろう。
【4-4-2が機能する条件】
だが率直に言って、組織としては機能していない。むしろ選手の距離感が悪くなって、前線に人が余る形になり、攻撃は停滞。コロンビアが完全に逃げ切り態勢に入っていたので押し込むことはできたが、お互いが何をすべきか模索したままで終わっている。1-2での逆転負けは必然だ。
ラ・レアル(レアル・ソシエダ)がこのシステムで成功している理由は、スカウティングの一貫性にある。技術が高く、頭もよく、連係でスペースを制し、崩せる選手を隅から隅まで揃えて、鍛えられている。久保はダビド・シルバのような左利きの名手と近い距離でプレーすることで相手を翻弄。他にもブライス・メンデス、ミケル・メリーノ、ミケル・オヤルサバル、アレクサンダー・セルロートなど、ボールプレーヤーとしての質の高い選手を多く従えることで、敵を撹乱できる。
このシステムの運用には、久保だけでなく、たとえば鎌田大地が不可欠だった。利き足は違うし、経験も足りないが、センス的にはシルバに近い。ふたりが揃ってこそ、プレーに緩急が生まれ、相手にダメージを与えられる。ちなみに4-2-3-1であっても、久保がトップ下、鎌田がボランチなら、もう少し攻撃で工夫できただろう。
能動的にボールを運び、人が湧き出すような攻撃を連続するには、ノッキングするポジションがあってはならない。
鎌田以外にも、有力な左利きのサイドバック、高さとポストワークに長けたストライカー、ボランチ的性格のアタッカーなど、最低3人は必須条件だろう。ひとり目は冨安健洋を推す。右利きだが、高いレベルで左足を使った左サイドバックをこなしている。ふたり目は上田綺世に任せたいが、特性では大迫勇也のほうが上で、競争に期待。そして3人目は、今回メンバー外になった旗手怜央がまさに適役だ。
何より、森保監督が本気でこの戦い方に取り組む姿勢も欠かせない。トレーニングで試すべきで、さもなければ要領を得ない選手や技術が足りない選手は浮いてしまい、単なるアナーキーなプレーになってしまう。ピッチ上での秩序の崩壊だ。
【CL出場圏に目を向ける久保】
終盤、苛ついた久保が後ろから引っ掛けられたコロンビアの選手と一触即発になる場面もあった。ラ・レアルの時のような気持ちのいいパス交換は皆無。そこでリズムが出ないのだろう。
「うまくいかず、イライラしていたかもしれません。自分が通せたはずのパスが通せなかったり、決められたはずのシュートがブロックされたり、要らないスプリントをして足にきたり。相手に突っかかるのも、ふだんの自分じゃなかった。失点を取り返そうと、気負っていたんだと思います」
森保監督が新しいシステムに手をつけたことは朗報と言える。しかし、その場合、選手選考から練り直すべきだろう。
「次(6月)の代表戦は勝たないと。ホームで勝ち点3、しっかり勝つ意識で、選ばれたら、今回はもったいないことをしたので、コンディションを仕上げられるように......」
久保はそう言って、すでにスペインでのリーグ再開に目を向けていた。
「帰ったら、すぐにビジャレアル戦で。CL(チャンピオンズリーグ)出場権を考えると(現在は4位で)、負けられない。3位と5位の試合も同時にあるので。22歳までにはCLに出たいというのはありますね。リーガで試合に出るだけで成長はできていますが、あと5点は決めたいと思っています」
あと5点で二桁に。ラ・レアルでは、十分に届く数字だろう。
<代表で久保をどう生かすか>
それはあいかわらず森保ジャパンにとって、課題のままだ。
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