「ギャンブルスタート」を生んだ伝説のバックホーム野村克也が悔しがった辻発彦のワンプレーが野球史を変えた

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「ギャンブルスタート」を生んだ伝説のバックホーム野村克也が悔しがった辻発彦のワンプレーが野球史を変えた

3月29日(水) 17:10

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辻発彦が語る日本シリーズ激闘の記憶(後編)

前編:辻発彦が明かす伝説の走塁の真実はこちら>>

中編:辻発彦が語る西武の強さの理由はこちら>>

今でも語り継がれる1992年、93年の西武とヤクルトとの日本シリーズ。サヨナラ満塁アーチあり、奇跡のバックホームあり、これぞプロフェッショナルという醍醐味を存分に見せてくれた。このシリーズでも辻発彦氏は数々の名プレーを演出。西武とヤクルトとの死闘を振り返る。



92年日本シリーズ第7戦、同点の7回裏、辻発彦の好守でピンチをしのいだ西武





【名手・辻の本領発揮】 ──92年の西武は、9月30日に早々とリーグ3連覇を決めました。一方、野村克也監督率いるヤクルトは、10月10日に14年ぶりのセ・リーグ制覇。10月17日から始まる日本シリーズは、西武の圧倒的優位の前評判を覆し、第7戦までもつれ込みました。

92年の日本シリーズは岡林洋一ですね。結果的に、第1戦、4戦、7戦と完投しました。打線は、1番の飯田哲也がクセ者で、クリーンアップもみんな一発もあったしすごかった。とくにハウエルをマークしました。ハウエルは、潮崎哲也の浮き上がって沈むシンカーをまったく打てなかった印象があります。いずれにしても、そう簡単には勝たせてくれないなと思いました。西武もヤクルトも、似た者同士の印象がありましたね。

──第1戦は杉浦亨(ヤクルト)が代打満塁サヨナラ弾、第2戦は清原和博(西武)が決勝2ラン、第3戦は石井丈裕(西武)が完投勝利、第4戦は秋山幸二(西武)が決勝ソロ本塁打、第5戦は池山隆寛(ヤクルト)が延長10回に決勝弾、第6戦は秦真司(ヤクルト)がサヨナラ弾と、とにかく劇的な展開でした。

投手の顔ぶれを見るとヤクルトは少し不安があったのかもしれませんが、フタを開けてみれば最終戦までもつれました。翌93年も同じカードで第7戦までいきましたし、まさに死闘でした。この2年については、ごっちゃになってしまうことがあるほどです。

昔はよく「第2戦が大事だ」と言われていましたが、実際やっている選手からすれば、やはり「第1戦が大事」ではないかと思います。周囲は「第1戦はデータ収集」と言いますが、選手にそんな余裕はありません。

──92年のヤクルトとの日本シリーズで印象的なシーンは第7戦、1対1で迎えた7回裏一死満塁。代打・杉浦選手の一、二塁間のゴロを辻さんが捕球してバックホーム。三塁走者の広沢克実選手は本塁フォースアウトになりました。

とにかく1点もやれない状況なので、前身守備を敷いて、自分のところに打球が飛んできたら、まず本塁でアウトをとる。たとえ際どいタイミングであろうとバックホームする気持ちでした。バットが折れたので、打球は弱かったんです。強い打球だったらもっと簡単に処理できたと思うんですけど、そんなに速くなかった。

──あの場面、辻さんはワンバウンドで打球を捕って、そのまま左回転してバックホームし、広沢さんを本塁で封殺しました。ただ伊東勤捕手がジャンプで捕球したように、送球は高かった。のちに古田敦也さん(ヤクルト)は「辻さんほどの名手であれば、もっと低く投げなければいけなかった」と語っておられました。

一瞬迷ったのは、私の左側に飛んだ打球に対して、無理して正面に入れば左回転しなくても投げられるかなと。中途半端に合わせたらファンブルしやすいんです。だから瞬間的に打球に合わせて、左回りで本塁に投げようと思いました。

──一塁走者が、打球を捕って送球しようとする辻さんにかぶりました。

そのあたりは気にしまいと。打球を捕った勢いで左に360度回転してバックホーム。「だいたい、ここらへんだな」という感覚で投げた送球が少し高く逸れてしまって、一瞬「あっ!」と思いました。フォースアウトの状況なので、本塁ベースを踏めばアウトですが、伊東がジャンプして捕球......三塁走者の広沢が滑り込んだところに着地し、結果としてブロックした形になってアウトになりました。

【ギャンブルスタートが誕生】 ──一死満塁で三塁走者が気をつけないといけないのは、ライナーで戻れずにダブルプレーです。あの場面、広沢選手は打球が地面に着いてからスタートしましたが、セオリーとしては間違っていません。

あの状況はワンアウトでしたし、攻撃側からすれば一か八かの本塁突入はできない。打者がアウトでもツーアウトで、まだチャンスはあるわけですから。

──野村監督はあの教訓から、どうしても1点がほしい時は一か八かのスタートをきる"ギャンブルスタート"を編み出しました。投球がバットに当たった瞬間にスタートし、ライナーゲッツーはOKだと。いずれにせよ、辻さんの好捕・好返球が野球史を変えるきっかけになったわけです。

翌93年の日本シリーズはセンター飯田哲也のバックホーム、潮崎のシンカーを覚えた高津臣吾が守護神となって、西武を破りヤクルトが日本一になりました。この2年間の日本シリーズは、どちらに転ぶのかわからない展開で、野球の醍醐味が詰まった戦いでした。ヤクルトにとっても意義のある日本シリーズになったと思いますが、まさか96年からヤクルトでプレーするとは想像もできませんでした。

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