【今週はこれを読め! SF編】懐かしい映画のような純愛タイムトラベル

『クロノス・ジョウンターの黎明』梶尾真治徳間書店

【今週はこれを読め! SF編】懐かしい映画のような純愛タイムトラベル

11月1日(火) 12:30

物質過去射出機をめぐる人間ドラマ《クロノス・ジョウンター》の最新作にして、シリーズ初めての長篇だ。

物語が開幕するのは1986年。住島重工の若い技術者、仁科克男は会社近くのレストラン、海賊亭の主人と知りあいになり、主人が二十六年前に趣味で撮影した8ミリ映像を見せられる。映っているのは、黒髪の若い女性だ。清潔な風貌、爽やかな表情、瑞々しい仕草......。克男はすっかり魅了されるが、彼女はこの映像が撮られた直後に事故死してしまったという。名は清水杏子。

海賊亭には古い映画のポスターが何枚も貼られており、映画鑑賞が趣味だった克男はよく名画座に通っていた。そんなところから、この物語の雰囲気が醸しだされる。

それからまもなく克男は新しい関連会社P・フレックへ出向となり、時間軸圧縮理論に基づくクロノス・ジョウンターの開発プロジェクトの一員となる。彼はひそかにこの装置によって清水杏子の命を救えないかと考えるが、時間を遡れたとして過去の改変は可能なのだろうか?そもそも、ようやく試作機ができたばかりのクロノス・ジョウンターは、直径二センチほどのものしか送れない。

以上が第一章。

第二章から第七章までは過去が舞台で、1960年からはじまる。ここにも清水杏子に魅せられた青年がいた。青井秋星(しゅうせい)という大学生だ。彼は海賊亭の主人の8ミリ撮影を手伝い、清水杏子と知りあう。彼女の邪気のない笑顔、素直な話し方、大きな瞳、目を細めたときの睫毛、小さくて彫りの深い顔......。秋星はどんなことがあっても彼女を守りたいと思う。

生きている時間が異なる克男と秋星がクロノス・ジョウンターを媒介としてつながり、清水杏子の運命を変えようと奮闘する。因果をめぐるパズルのような仕掛け、思いがけない局面の演出は、ロバート・A・ハインライン『夏への扉』に連なる懐かしいSFの味わいだ。

(牧眞司)



『クロノス・ジョウンターの黎明』
著者:梶尾真治
出版社:徳間書店
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