【今週はこれを読め! エンタメ編】夕木春央『方舟』の結末を見届けるべし!

『方舟』夕木 春央講談社

【今週はこれを読め! エンタメ編】夕木春央『方舟』の結末を見届けるべし!

9月28日(水) 15:25

ふと気づけば、みんなが『方舟』の話をしていたのだった。私のTwitterのタイムラインでは。著者の夕木春央さんは、『絞首商會』(講談社)でデビューされたメフィスト賞作家。『絞首商會』はうかつにも積読の状態で、私はまだ夕木作品を読んだことがなかった。うかうかしている間にも、日に日に目に入る情報は増えていく。「このままでは決定的なネタバレを踏んでしまうかも」と恐れた私は、書店に走った(大きめの書店ですが、最後の1冊でした。いまのところ、本書を話題にされているのは、すでにプルーフで読まれた書店員さんや作家の方々が多い印象。「『方舟』売ってない」とのツイートも見かけますので、多くの読者が入手できるよう、早めの増刷をお願いしたいです)。

のっけから、不穏な聖書の引用と殺人の発生を示すプロローグ。次頁から始まったのは、7人の男女が何かの建物を探して山道を歩いているシーン。彼らのうち6人は都内の大学の同じ登山サークルの出身で、その中の1人・裕哉の父親の別荘に昨日から泊まりに来ていたことがほどなく明かされる。残る1人は、語り手の柊一の従兄・翔太郎。柊一は「少し思うところ」があって、翔太郎を連れて来たらしい。彼らが目指しているのは、裕哉が半年前に見つけたという「昔ヤバめのことに使われてたっぽい」「多分今はもう誰にも知られてない」と思われる、山奥の巨大な地下建築。なにこのデスゲームっていうかデス遠足的展開は。こういった閉鎖状況ミステリーを読むたび私の心に浮かぶ「怪しい建物には近づいちゃダメだって!」という叫びは、当然今回も彼らの耳に届くことはない。

やっと入口を見つけ、地下へと降りていく一行。洞窟のような横穴を進むと、「通路の途中に太い鎖でグルグル巻き」になった大きな岩が。その脇をすり抜けて鉄扉を入ると、そこが地下建築の入り口だった。もはや夕方も遅くこの建物に泊まらざるを得ない状況だったが、幸い発電機も稼働するし、水道も使える状態だった。天然の空洞を生かして仕立てられたらしい建物内部を調べてみると、地下1階と2階には数多くの部屋もある。しかし、地下3階は水没。機械室にあった館内図らしきものには、地下建築の名称として「方舟」と書かれていた。

スマホを使用するのに電波が届いていないかを確認するため、裕哉・さやか・花の3人がいったん地上に出る。しかし、30分ほどして帰ってきた3人は、50代くらいの父母と中学生らしき息子という見知らぬ親子3人を連れていた(やはりスマホは繋がらなかった)。きのこ狩りをしていて道に迷ったと話す一家は、矢崎と名乗る。それぞれ昼間のうちに用意していた食料を食べ、眠りに就いた10人。

しかし、夜中に発生した地震により、彼らは地上に出られなくなってしまう。例の鎖が巻かれた岩が、鉄扉を完全に塞いでしまったのだ。鎖を巻き上げることによって岩を地下2階に落とせれば鉄扉は開くようになるが、その結果巻き上げ係が閉じ込められるという構造になっているため、誰かが狭い空間にたった1人で取り残された状態で助けを待たなければならない。さらに追い打ちをかけるように、地下水が上がってきていることが判明。「そう遠くないうちにこの地下建築は完全に水没する」という翔太郎の見立てにより(後に改めて算出したところでは、タイムリミットは1週間弱と予想)、自分たちをこのような状況に陥れた張本人である裕哉に鎖の巻き上げをやらせればよいという空気に。全員で姿の見えなかった裕哉を探すが、彼は絞殺されて絶命した状態で発見された...。

はい、導入部はしっかりめにご説明いたしました。が、これ以上はできる限り情報が入らないよう、なるべく早くお読みになっていただいた方がよろしいかと存じます。いやもう、すべてがこわい。閉鎖空間なのも(閉所恐怖症ぎみゆえ)、水が上がってくるのも、こんなシチュエーションなのに妙にユーモラスな描写があるのも、犯人の驚異的な頭の回転の速さも。絶叫しそう。それでも比較的ライトな語り口に油断してましたが、夜中に読み終えたら恐怖でなかなか寝つかれず。読了されたみなさんが騒然としてらした理由がよくわかりました。年末のミステリーランキングでは必ずやトップにつけるであろうと多くの方々が予想されているのも、まず間違いないところでしょう。どうかたくさんの読者に、この結末を見届けていただきたいと思います。家に帰るまでが遠足ですよ。

(松井ゆかり)



『方舟』
著者:夕木 春央
出版社:講談社
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