【今週はこれを読め! SF編】歴史が負った精神的外傷をめぐるハードボイルド

『ループ・オブ・ザ・コード』荻堂 顕新潮社

【今週はこれを読め! SF編】歴史が負った精神的外傷をめぐるハードボイルド

9月13日(火) 12:09

イグノラビムスという国で奇病が同時多発していた。発症するのは児童ばかり。発作が起これば、身体を屈曲させて横たわり、昏睡と見まごうほどのコミュニケーションの断絶、食事拒否の状態になる。ウイルスや寄生虫などの原因は見つかっていない。国連の調査員アルフォンソ・ナバーロは、状況を把握するために現地に派遣される。

イグノラビムスはひじょうに特殊な成り立ちの国家である。二十年ほど前、クーデターによって政権を奪取した国軍(トライブ)は、新開発の生物兵器――ゲノム編集による選択的な攻撃が可能な悪魔の病原体――を用い、四十万人以上の少数民族を虐殺した。世界はこの惨劇に戦慄した。国際連合軍が出動して国軍を制圧し、未来へトラウマを残さぬため、徹底的な歴史の〈抹消〉をおこなったのだ。その国の歴史・文化・宗教・言語が、公的記録や私的文書からインターネットのすみずみに至るまで痕跡もなくぬぐい去られ、地名や個人名もすべて変更。イグノラビムスという国名もそのときに誕生し、〈以前〉のことは封印された。

しかし、過去は宿痾のように甦る。アルフォンソたちが奇病の調査(発症した児童とその家族との面談を主とする)を進めているさなか、かつての大虐殺を引きおこした生物兵器の開発者である徐張偉博士が、終身刑で収監されていた施設から何者かによって連れさられたのだ。

児童だけがかかる奇病という「謎」。

抹消された歴史という「背景」。

そして『ループ・オブ・ザ・コード』という表題が示す「主題」。

この三つの層が有機的につながって、サスペンスフルなドラマが展開される。

「ループ・オブ・ザ・コード」とは、あやとりが紡ぐ輪と線であり、親子(より一般的には過去の世代と未来の世代)の交叉を象徴する。物語のなかでいくつもの家族のかたちが描かれるが、そこには語り手であるアルフォンソの境涯も含まれる。それは絆などというきれいごとではなく、ときに堪えがたい呪縛であり、ときに痛々しい希望である。

(牧眞司)



『ループ・オブ・ザ・コード』
著者:荻堂 顕
出版社:新潮社
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