アカデミー賞監督が『カメラを止めるな!』をリメイクした理由とは?「ぜひ監督させてほしいと願いでた」

『キャメラを止めるな!』のミシェル・アザナヴィシウス監督にインタビュー/[c]2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

アカデミー賞監督が『カメラを止めるな!』をリメイクした理由とは?「ぜひ監督させてほしいと願いでた」

7月18日(月) 13:30

低予算のインディーズ映画ながら社会現象を巻き起こし、興行収入31億円超えのメガヒットとなった上田慎一郎監督作『カメラを止めるな!』(17)。本作をリメイクしたフランス映画『キャメラを止めるな!』(7月15日公開)を手掛けたのは、第85回アカデミー賞で5冠に輝いた『アーティスト』(11)のミシェル・アザナヴィシウス監督だ。「リメイク映画ながら、とてもパーソナルな映画になりました」と語る監督に、オリジナル版との出会いから撮影秘話までを聞いた。
【写真を見る】竹原芳子、リメイク版『カメ止め』でも個性爆発!日本のプロデューサー、マダム・マツダ役を熱演

『カメラを止めるな!』は、37分間ワンカットのゾンビサバイバル映画を撮影中に本物のゾンビが出現するという前半が展開されたあと、後半でその撮影舞台裏が明かされるというトリッキーな構成が映画ファンをうならせた。リメイク版である『キャメラを止めるな!』では、フランス人監督レミー(ロマン・デュリス)のもとに、日本で大ヒットしたゾンビ映画『ONE CUT OF THE DEAD』(『カメラを止めるな!』の英題)をカメラ1台でワンカット撮影し、生放送してほしいといった無茶なオファーが入る。

■「『カメラを止めるな!』とは逆の物語を考えていたんです」

『カメラを止めるな!』をリメイクすることになったのは、偶然の出会いがきっかけだったというアザナヴィシウス監督。「僕は長年、映画の現場を舞台にした物語を撮ってみたいと思っていて、そのアイディア出しを始めていました。そのころ、まだ『カメラを止めるな!』の存在は知らなかったのですが、僕も主人公が監督で、キャストやスタッフ間の人間関係を描き、物語の最後にワンカットの長回しをして、すべての物語が解決するといった、いわば『カメラを止めるな!』とは逆の構造となる物語を考えていたんです」。

そんななか、たまたま本作のプロデューサーであるヴィンセント・マラヴァルと別件で話す機会があり、お互いの近況を報告し合うなかで、マラヴァルが『カメラを止めるな!』のリメイク権を取得したという話を耳にしたそうだ。

「その時、偶然にもその映画が、僕の考えていた映画と同じように、映画の制作現場を舞台にした作品だと聞きました。そうしたらヴィンセントから『よかったらこの映画を観てほしい』と視聴リンクが送られてきたんです。それで観てみたら『傑作だ!』と感じ、もしリメイクをするのであれば、ぜひ自分に監督をさせてほしいと願いでたんです」。

■「竹原さんなら、物語に信憑性を与えてくれると思った」

オリジナル版とリメイク版の一番の大きな違いは、キャストの豪華さだろう。『カメラを止めるな!』は、もともと低予算のインディーズ映画で、当時はほぼ無名のスタッフ、キャストによる手弁当の映画だったが、リメイク版は、主人公である監督のレミー役を『真夜中のピアニスト』(05)などの人気俳優、デュリスが、彼の妻ナディア役を、アザナヴィシウス監督の妻で、『アーティスト』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたベレニス・ベジョなど、人気と実力を兼ね備えた俳優陣がキャスティングされている。

特筆すべき点は、日本のプロデューサー、マダム・マツダ役を、オリジナル版でも個性派プロデューサー役を演じた竹原芳子が務めるというキャスティングの妙だ。

竹原の起用については「彼女が醸し出す非現実さみたいなものが本作の作風に合うなと思いました。なぜなら、彼女がワンカット長回しでゾンビ映画を生配信するという、突拍子もないリクエストをしてくるわけでしょ。普通だったら無謀すぎてあり得ないことですが、『なるほど、彼女なら言いかねない』と、物語に信憑性を与えてくれると思ったんです」と、その狙いを明かした。

「リメイクするにあたり、極力オリジナルからの変更はしたくなかったんです」という監督の言うとおり、衣装やシチュエーションなどは、ほぼオリジナル版を踏襲している。「ただ1つ、オリジナル版と大きく違う点は、種明かしの受け止め方が変わってしまうこと。そこはもうひとひねり考えなくていけないと思いました」というアザナヴィシウス監督。

「オリジナル版では、当時無名の監督、役者さんによるインディーズ映画だったということで、最初のワンカットで撮るゾンビ映画が、無茶な展開のB級映画だったとしても、すんなり『そういうレベルの映画なんだ』と信じて観続けることができます。そして、サプライズが明かされて、結果的に映画としてすごくスマートなことをやっていたんだ!と気づくというオチです。でも、リメイク版の場合は、キャストがすでに著名な役者たちなので、同じようなサプライズは望めませんでした」。確かにデュリスら演技派俳優が、ゾンビ映画で不可思議な演技をしている時点で、なにかからくりがあるのではないか?と、最初から勘ぐってしまうのは致し方ない。

そこでマダム・マツダが、原作の変更を一切拒否するという無理難題を押し付ける案を思いついたのだそう。「役者が日本の役名のままで演じていくという設定にました。竹原さんの無茶ぶりで、フランス側のプロデューサーが困惑する姿も笑いにつながります」。

■「自分にとってものすごくパーソナルな映画になった」

一番、苦労したシーンを尋ねると「そりゃあ、最初の長回しをしたワンカットです」とおちゃめに笑ったあとで「それ以外だと、最後の人間ピラミッドのシーンです。あのシーンは、いわゆるサーカスの曲芸のように見えるピラミッドにはしたくなくて。『メデュース号のいかだ』(Le radeau de la meduse)という絵画のようなイメージにしたかったので、それをファーストの助監督に見せました。その結果、イメージ通りにできあがり、渾身のカットとなりました。役者さんたちは本当につらそうで、なかでも一番下で支える人たちは、叫び声をあげました。だから劇中に入っているのは、演技ではなくリアルな叫び声です」と手応えを口にする。

また、アザナヴィシウス監督は本作について「撮り終えてから、僕がおもしろいと感じたのは、すごくオリジナルに忠実なものを作ったはずなのに、結果的に自分にとってものすごくパーソナルな映画になったということです。奇妙に聞こえるかもしれませんが、本当にそう感じました」と感慨深い表情を見せる。

「本作を観た多くの人が、スタッフやキャストの間でのすばらしいシナジー効果を感じると言ってくれるのですが、人間ピラミッドはその(みんなで1つになって力を合わせて作るという)感覚を完全に体現してくれたと思います。それはオリジナル版でも、非常に感動的なシーンで、僕自身もすごく心を動かされました。ただリメイク版はその流れに加え、パンデミック禍の撮影であったということで、また別の色合いの感動があふれ出たのかもしれません」。

■「映画を作れることがうれしくて仕方がなかったです」

監督は改めて本作の制作時を振り返り「脚色を手掛けたのは、フランスが最初のロックダウンになったころです。撮影時もまだフランスでは外出禁止時間があり、どこに行ってもパンデミックに関する恐怖心や不安があるような状況でした。そんななかで、僕たちは映画の仕事に戻ることができただけでなく、喜びや幸福感にあふれる作品を作るチャンスを与えられ、まるで休みに入った学生のようにウキウキしていました」とうれしそうに目を細める。

「現場に飛び込んだ時、映画を作れることがうれしくて仕方がなかったです。第1部のワンカット長回しがかなり複雑だったために、メインとなる7人の役者さんとは5週間もリハーサルを行いましたが、だからこそ劇団的なチーム感が強まりました。その後スタッフやほかのキャストが加わってくれた時も『ああ、みんなで一緒に作っているんだな』と強く感じました。それはきっと映画を観てもらえれば、観客にも伝わるんじゃないかと思います」。

撮影秘話に加え、オリジナル版への称賛と、あふれる映画愛を語ってくれたアザナヴィシウス監督。完成した映画を観た『カメラを止めるな!』の上田監督は「本作は、紛れもなく“カメ止めであり”、同時に"カメ止めでないもの”に仕上がっていました。作品内にカメ止めそのものを取りこみつつ、新たにカメ止めを再現する。まさに“カメ止め的”としか言いようのないリメイクになっていました」と絶賛している。ぜひスクリーンで、秀作に仕上がったリメイク版を鑑賞後、改めてオリジナルの『カメラを止めるな!』も観ていただきたい。

取材・文/山崎伸子


【関連記事】
ポール・トーマス・アンダーソン監督が語る、映画を作り続ける理由「映画が脳裏から離れたことはない」
スコット・デリクソン監督が明かす、“恐怖”の原初的体験「観ることも作ることも、克服することだった」
「『エルヴィス』で描かれる芸能界は、日本やK-POPにも通じる」バズ・ラーマン監督にインタビュー
3年ぶりにリアルも開催される「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」周辺スポットを探訪!SKIPシティの満喫術は?
『キャメラを止めるな!』日本版吹替えは上田慎一郎監督が監修&吹替えに多田野曜平、三石琴乃、武内駿輔ら
MOVIE WALKER PRESS

エンタメ 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ