プロ未経験を武器に無名選手を次々に発掘。「死ぬまでスカウト」を実践した今成泰章氏を偲ぶ

photo by Kyodo News

プロ未経験を武器に無名選手を次々に発掘。「死ぬまでスカウト」を実践した今成泰章氏を偲ぶ

3月8日(火) 10:45

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 3月に入り、社会人野球のスポニチ大会、センバツ高校野球の取材準備をしながら、今年もいよいよアマチュア野球が始まるな......と思っていたら、まさかの訃報が飛び込んできた。日本ハムの今成泰章スカウトが亡くなったというニュースをネットの速報で知った時は、「えっ!」と思わず声をあげ、固まってしまった。



ダルビッシュ有(写真左)にヒルマン監督からのメッセージを渡す今成泰章スカウト(写真右)





プロ経験のないスカウト 今成スカウトとは、1955年生まれの同期だった。高校時代は同じ東京の球児として、練習試合で何度か戦った。今成スカウトがいた堀越高校は甲子園を目指せる強豪チームで、我が早大学院はひどくやられたことははっきりと覚えている。

 当時の今成スカウトは、長身の内野手でショート、サードを守っていた。駒澤大に進んでからは捕手になったと聞いたが、その後、彼の名前を目にしたのは、大学卒業と同時に阪神のスカウトに就任するという新聞記事だった。

 どんな経緯でその職についたのかはわからないが、私もスカウトへの憧れがあったから、今成スカウトに対して羨望と敬意と、ちょっとした嫉妬があった。

 今成スカウトを紹介してくれたのは、広島カープの苑田聡彦スカウトだった。最初に会った時に高校時代の話を持ち出したが、「そうだったかなぁ......」とまったく覚えられていなかった。

 それでも、それからは現場で会うと「おう」と声をかけてくれ、「これ食べるか?」と何度もパンをいただいた。

 そういう時は、いつもスカウトは彼しか来ていないような地方の球場で、一見ぶっきらぼうだけど、じつは照れ屋だったのかもしれない。

 それでも、そこで隣に座り込んで話が盛り上がるということもなく、なんとなく"一匹狼"的な雰囲気の漂うスカウトだった。いつも忖度なく自分の意見をはっきりと言い、間違ってもおべんちゃらを使うような人じゃなかったから、少なからず敵もいた。

「オレみたいなプロの経験もない、大学からいきなりスカウトになったような若造は、黙ってたらなんの仕事にもならないのよ」

スカウトは敵が多いほど一人前 だいぶ言葉を交わすようになってから、こんなことを言っていた。

「いいものはいい、ダメなものはダメ。ホントのことだけを言っていると、若いのに生意気だって言われてね。でも、お世辞なんて、要するにウソでしょ。時間はかかるかもしれないけど、『今成はウソを言わない』ってことが浸透すれば、必ず信用される。その代わり、ほかのスカウトにはウソは言うけどね(笑)」

 スカウトの仕事には、人一倍のプライドと誇りを持っていた。

「いろいろ言う人がいるみたいだけど、スカウトなんて選手を奪い合う商売なんだから......敵が多いほど一人前ってことよ」

 阪神のスカウト時代は、"盲点"となっていた選手を推薦して、彼らがしっかり一軍の戦力となり、チームの底上げに尽力した。

 1984年2位指名・佐藤秀明(投手/日立製作所)、同3位指名・和田豊(内野手/日本大)、1990年4位指名・田村勤(投手/本田技研)などがそうだ。

「プロ経験のあるスカウトから見れば、非力に見えてリストから外す選手でも、オレみたいなアマチュアの経験しかないスカウトは、『ちょっと待てよ、意外と使えるんじゃないの』って思ってしまう。すごい選手ばかり目がいかないっていうのが、逆にプロを知らないオレの強みなんじゃねえかなって思うんだ」

 プロ経験者が多いスカウト会議で、注目度のあまりない選手を強く推すのに、相当の苦労があったはずだ。

「たしかに和田なんて、間違ってもホームランなんか打てないような選手だったけど、試合でも練習でも、絶対に手を抜かなかった。オレはチームのリーダーになれると思った。3位で指名したのは、おふくろさんが反対していたから。和田は教員になるって言っていて......それで上位で指名したんだ」

武田勝、獲得秘話 2003年に日本ハムに移ってからは、ダルビッシュ有(東北)や大谷翔平(花巻東)の担当スカウトとして名を馳せたが、個人的には2005年4位の武田勝(投手/シダックス)の指名が今成スカウトの真骨頂だと思っている。

「三振をバタバタとる投手はたしかにすごいし、魅力的です。でも、派手じゃなくても、タイミングを外しながら丁寧に投げてアウトを重ねる投手もすごいと思っています。そういう意味じゃ、打ちにくいっていうのも大きな武器。武田なんて、130キロも出なかったですからね」

 そんな今成スカウトだが、5、6年前あたりはしばらく姿を見かけないと思っていたら、前立腺ガンの治療中だと聞いた。それでも持ち前の生命力で完全復帰。時折、現場で会うと、彼のほうから声をかけてきてくれて、以前よりもちょっと丸くなったような気がした。無理しないようにと告げると、「もう無理しないと、何もできなくなっちゃったよ(笑)」と珍しく冗談を言ってきたが、独特の鋭い眼光はちっとも変わっていなかった。

 じつは、今成スカウトの本を出版したいと思っていた。本人も乗り気になってくれて、タイトルも『死ぬまでスカウト』と勝手に決めていた。それを伝えると、「おーそれよ。オレは死んでもスカウトだから。スカウトしかやったことないんだから」と喜んでくれた。

 結果的に企画は通らず、出版は実現しなかった。今にして思えば、それが残念でならない。

 23歳でスカウトになって、阪神の頃は人間関係の大変さを嫌というほど味わったという。それでも1年のブランクもなく、最後までスカウトであり続けた。まさに「死ぬまでスカウト」を実践した。

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症という、聞きなれない恐ろしげな病名で、あっという間にこの世を去ってしまった。きっと、本人がいま頃いちばんビックリしているのではないか......。

 プロ経験がなかったことを武器に、次々と名選手を探し出した功績は計り知れない。スカウトの醍醐味を教えてくれた方だった。

 あらためて今成スカウトのご冥福をお祈りします。合掌。

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