尾崎亜美の『STOP MOTION』は天才少女が潜在能力を如何なく発揮した傑作中の傑作

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尾崎亜美の『STOP MOTION』は天才少女が潜在能力を如何なく発揮した傑作中の傑作

9月22日(水) 18:00

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9月15日、尾崎亜美がデビュー45周年記念アルバム『Bon appetit』をリリースしたとあって、今週はその尾崎亜美の作品から一枚を取り上げる。リアルタイムで彼女のデビューを目撃したリスナーには、やはり『SHADY』のインパクトが強く、尾崎亜美と言えば『SHADY』なのかもしれないが、ここは『STOP MOTION』とした。その理由は初期の彼女のプロフィールとともに以下に記した。いずれにしても“天才”と呼ばれた彼女の資質は作品にはっきりと表れているのは間違いない。

■名うての音楽家からの寵愛

1976年、シングル「冥想」でデビューした時から“天才少女”と呼ばれていた尾崎亜美。その前年の1975年に発売された荒井由実(現:松任谷由実)のシングル「あの日にかえりたい」がチャート1位となり、折からの“ユーミンブーム”→“ニューミュージックの到来”という時代の流れの中で、“ポスト・ユーミン”としても大いに期待された。その期待の大きさは彼女のデビューアルバム『SHADY』に集った制作陣の顔触れを見てもよく分かる。プロデューサーは当時オフコースも担当していた武藤敏史で、アレンジャーはこの頃もちろんユーミン作品を手掛けていた松任谷正隆。LPの帯には“オール・コンセプション&アレンジメントの松任谷正隆”とあったというから、松任谷は単なる編曲担当ではなく、プロデューサー寄りのポジションでもあったのだろう。

レコーディングに参加したミュージシャンは、松任谷(Key)を筆頭に、鈴木 茂(Gu)、林立夫(Dr)という、細野晴臣を除いたキャラメル・ママ=ティン・パン・アレーのメンバー。初期ユーミンのバックバンドがそのままスライドしている。ベースは、そのティン・パン・アレーのレコーディングの他、鈴木 茂&ハックルバックのメンバーでもあった田中章弘(Ba)らが弾いている他、パーカッションに[アルバム「MISSLIM」以降、ユーミンのアルバムには欠かせない存在のスタジオ・ミュージシャンとして参加]していた斎藤ノブ(Per)、コーラスにはハイ・ファイ・セットの他、“AMII'S Army”名義で山下達郎と吉田美奈子も名を連ねている([]はWikipediaからの引用)。現在に至る邦楽シーンを創り上げてきたと言っても過言ではない面子である。

ティン・パン・アレーのメンバーに関して言えば、松任谷は次作2nd『MIND DROPS』(1977年)ではアレンジャー&キーボーディストのみならずプロデューサーとして参加しているし、鈴木、林はそこからしばらく彼女のアルバム制作に加わっている(6th『MERIDIAN-MELON』(1980年)まではミュージシャンとしてクレジットされていることを確認できた)。鈴木と尾崎は1992年の“桃姫BAND”結成に参加した上、2000年にはユニット“The DELTA-WING”も結成しているので、音楽活動において欠かせないパートナーであるようだ(ちなみに“桃姫BAND”“The DELTA-WING”のメンバーであり、元サディスティック・ミカ・バンドの小原礼(Ba)が尾崎の夫である)。

というわけで、当初はそのデビューアルバム『SHADY』を紹介しようかと考え、まずザっと聴いてみた。この時、彼女は19歳。アルバムの発売がその年の8月だから、録音したのはおそらく高校を卒業したばかりの頃か、もしかするとまだ高校在籍中の時だったかもしれない。そう考えると、のちの彼女の作品に比べれば幼さは否めないものの、歌唱力、表現力は確かだし、何よりも(オープニングのインストを除いて)全て彼女自身が作詞作曲を手掛けているのだから、“天才少女”と呼ばれたことにも十分に頷ける。サウンドも的確だと思う。何と言うか下世話さみたいなものが皆無。今でも流行歌なるものに適度な下世話さは必要で、それが大衆性にもつながっていると思うのだが、『SHADY』にはそういう感じがないのである。

ちなみに1976年の年間シングルチャートを見てみると、1位:子門真人「およげ!たいやきくん」、2位:ダニエル・ブーン「ビューティフル・サンデー」、3位: 都はるみ「北の宿から」、4位:太田裕美「木綿のハンカチーフ」、5位:二葉百合子「岸壁の母」とある。ジャンルこそバラバラだが、各々いずれも独特のキャッチーさを有している。その辺に比較すると、『SHADY』収録曲は派手さに乏しい。「私を呼んで」や「追いかけてきたけれど」といったソウル系のナンバーは音数も多く、決して地味な音像ではないけれども、子供でも分かるキャッチーさを有しているかと言ったら、それはどうでもなかろう。別にそれが悪いとは言ってない。この辺は件のユーミンブーム”→“ニューミュージックの到来”という時代の流れの中、巷の流行とは別のものを作ろうという意識が強かったのだろう。加えて言えば、『SHADY』というタイトルのアルバムである。全編カラッと明るく…というわけにはいかない。そういう背景もあって、あの音像だったと思われる。

■3作目にしてセルフプロデュース

そんな『SHADY』の解説でも良かったのだが、何となく気乗りがせず、“それでは他の作品はどうだろう?”とググっていると、その2年後に発表された3rd『STOP MOTION』がセルフプロデュース作であることを知った。3作目にして全曲のアレンジも手掛けていたとは驚きである。2年後ということは21歳。もう“少女”という年齢ではなかったが、“天才”の称号はデビュー時ではなく、この時を指してそう言われていたのではないか。そんなふうにも思ったところだ。『STOP MOTION』を聴いてみると、こちらもまた下世話さはないけれども、『SHADY』に比べればポップな印象。勝手を言わせてもらえば、個人的にはこちらのほうが好みだ。最も印象に残ったのはヴォーカルの表現力の高さ。自らアレンジをしているということは、楽曲全体のプロデュース能力も長けているのだろう。そう考えると、デビューから3枚目、若干21歳での仕事としては、ちょっと驚異的にも思う。『SHADY』も名盤に違いないだろうが、今回は3rd『STOP MOTION』を紹介させてもらうことに決めた。

オープニングは、軽快なエレキギターとパーカッシブなリズムに彩られたM1「センセイション」。ギターは鈴木 茂、ドラムは林 立夫、パーカッションは斉藤ノブである。興味深いのは頭に入っている波の音のSE。『SHADY』の1曲目、インストの「プロローグ」も波の音が入っていて、そこから雷→雨の音と進んでいくのだけれど、何か因果関係、相関関係があるのだろうか。歌詞もなかなか興味深い。

《まだ私の肌は眠っているわ/熱い想いを焼きつけて/センセイション/もうすぐレディ 君はレディ》《「帰りたけりゃ帰ったらいいさ」/あなたの気持ちに入りこめない/いたずらな神様が吹かせてくれた/はじけそうな想いは Only you/センセイション/そうさレディ 君はレディ》(M1「センセイション」)。

先ほど、自分は“もう“少女”という年齢ではなかった”と書いたが、《もうすぐレディ 君はレディ》からは、まさに少女から大人への端境期のようなものを感じさせる。セルフプロデュースを行なうことになったという、アーティストとしてのレベルアップを重ねることもできよう。

M1での波の音はそのままM2「ジョーイの舟出」のイントロにも重なっていく。シティポップな雰囲気で、ソウルっぽいホーンセクションも入ってるが、それこそ下世話ではない程度にバランス良く導入している。ここでの最注目はアウトロで聴かせる彼女のシャウトとスキャットであろう。

《心細い月の光に小さな舟を出すなんて/闇に紛れてひとりでどこへ行くの?》《ジョーイ 聞こえてる?/ジョーイ 連れて行って/ジョーイ 恐いものはないわ ふたりなら》《ジョーイ 女だから待ってる ひとりでも》(M2「ジョーイの舟出」)。

歌詞はこんな感じで、“舟出”というくらいだから、新しいことを始めるのか、新しい場所を目指すのか、何か目標を定めた“ジョーイ”なる人物への想いを綴ったものだ。そんな“ジョーイ”に対して、アウトロでのヴォーカリゼーションでは言葉にならない感情が溢れているような印象がある。そこがとてもいい。ことさら“女性の強さ”といったところを強調するのもアレだが、そのはっきりとした物言いに、ユーミンを筆頭に女性シンガーソングライターが台頭してきた時代の象徴を勝手に感じたところである。

その辺は続く楽曲にも垣間見える。M3「嵐を起こして」はタイトルからして能動的かつアグレッシブなスタンスがうかがえるし、M4「ランクダウン」はサウンドも含めてダウナー系に分類されるものであろうと思うが、内側に溜め込んだ沸々としたマグマのような熱さを感じる。《あなたらしいわ せめてうわさが/伝わる前に言い訳を考えておくものよ》辺りの歌詞がそうだし、狂気じみた感じを受ける間奏のギターソロもそうした情念に呼応したものだろう。

かと思えば、バラードナンバーであるM5「来夢来人(らいむらいと)」では、ストーリーテラーのような落ち着いたヴォーカリゼーションを聴かせるのも本作の面白いところ。多くを語らずにその背後にある物語を想像させるタイプの歌詞であることが関係しているからだろうが、極めて客観的に語り部のような歌い方を見せている。こういうことができるのは、彼女のヴォーカリストとしての資質が確かなものであることを改めて示しているように思う。ちなみにM5は間奏で寸劇が入る。ここで会話を交わしているのが尾崎と、M2でコーラスにも参加している寺尾 聰(つっても彼の台詞は「うん」だけだが…)。で、M5ではオフコースの小田和正、鈴木康博がコーラス参加している。

■多彩なアレンジと表現力

オフコースのふたりはM6「ストップモーション」でもコーラスを担当しているが、このタイトルチューンもアーティスト、尾崎亜美の才能を感じたナンバーである。

《心のブレーキがもうかからない/あなたに走り出している》《腕に抱かれて 力が抜けていく/「愛してる」ことばにならない》(M6「ストップモーション」)。

弾けるようなピアノが引っ張るサウンドはまさにポップ。Jake H. Concepcionが奏でるサックスも実に活き活きとしており、彼女の歌い方も含めて、文字通り《ことばにならない》愉悦を楽曲全体で表現しているようだ。アウトロで聴かせるサックスとスキャットとの掛け合いは圧巻で、遺憾なく発揮されたシンガーとしてのポテンシャルは素晴らしいのひと言である。

M7「春の予感 〜 I've been mellow」は、尾崎が提供して同年1月に南 沙織がリリースしたシングル曲のセルフカバー。渋い…というと語弊があるかもしれないが、南 沙織版よりも落ち着いているように感じる。セクシーと言ってもいいかもしれない。これは(これも?)鈴木茂のギターが絶品。強過ぎず弱すぎず、ポップだけどお気楽な感じではない、揺れ動く気持ちを6本の弦で的確に表しているように思う。気持ちの良い旋律と音色だ。

M8「悪魔がささやく」は本作の白眉ではないかと思う逸品だ。スリリングなブラスが配されたアップチューンで、パーカッションも多め、サンバホイッスルも鳴っている上に、ベースも随分とブイブイと鳴っている楽曲である。間奏ではスライド奏法のギターからオルガンのソロが聴こえてくるといった具合で、かなりロックっぽい。しかしながら、歌は若干ウイスパーっぽく、可愛らしい歌声というバランスがかなり興味深い。

《未完成な恋を試すのは誰?!/とがったつめにつかまってしまった》《秒刻みに傾むいていく/デビリッシュな恋を誰が仕掛けた/知らず知らずにひきずられてく》《わざとデートをすっぽかしてみた/だけどあなたは信じこんでる/毒針のつめをうまくかくして/天使のように妖しく笑う/優しい彼と悪い男/いつもスリルを楽しむのよ》(M8「悪魔がささやく」)。

もともと彼女の歌声が可愛らしいと言ってしまえばそれはそうなのだろうが、恋愛経験の浅い女の子が背伸びしているような感じが、歌とサウンドで強調されているような印象だ。続くM9「もどかしい夢」も可愛らしい感じだが、同じ“可愛い”でもまったく違った表情を見せているのは、これまた彼女のプロデューサー、アレンジャーとしての確かな手腕を感じるところである。アルバムのフィナーレ、M10「ラストキッス」は吐息混じりの歌い方で、M8、M9とは異なるアプローチを示しているのは、彼女のポテンシャルのダメ押しだろうか。本作ではマックス大人な印象である。M10では幻想的なストリングスが配されており、これも彼女が編曲したもの。ストリングスはこの曲の他にも入っているが、何とここまで彼女は弦楽のアレンジをしたことなく、本作で初めて手掛けたという。一夜漬け的に専門書を読んでアレンジ術を身に着けた…なんて都市伝説的な話もあるようだが、その真偽はさておいても、デビューから3作目でストリングスも(ブラスも)自身で配したというのは、まさに“天才的”と言ってよかろう。

前述した南沙織「春の予感‐I've been mellow‐」の他、杏里「オリビアを聴きながら」、髙橋真梨子「あなたの空を翔びたい」、さらには松田聖子「天使のウィンク」、観月ありさ「伝説の少女」等々、現在に至るまで数多くの女性アーティストに楽曲提供をしてきた彼女。この『STOP MOTION』でのプロデュース力を考えれば、その才能を放っておく音楽業界人はいないだろう。そんなことをストレートに感じさせる秀逸なアルバムであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『STOP MOTION』

1978年発表作品



<収録曲>
1.センセイション
2.ジョーイの舟出
3.嵐を起こして
4.ランクダウン
5.来夢来人(らいむらいと)
6.ストップモーション
7.春の予感 〜 I've been mellow
8.悪魔がささやく
9.もどかしい夢
10.ラストキッス



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