紆余曲折を経て始まった東京五輪。こんな時代だから知りたい「スポーツと社会」の関係

8月3日(火) 6:00

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「スポーツって誰もが楽しめるものだし、人を勇気づけるものなのに......。オリパラの選手の中には、世間に対して申し訳ないという思いを抱えている人もいると思うけど、私はそれが怖いんです」と語る木村好珠氏

「スポーツって誰もが楽しめるものだし、人を勇気づけるものなのに......。オリパラの選手の中には、世間に対して申し訳ないという思いを抱えている人もいると思うけど、私はそれが怖いんです」と語る木村好珠氏

コロナ禍での東京五輪開催の是非をめぐって、さまざまな議論が巻き起こり、スポーツやアスリートのあり方がかつてないほど問われているこの時代。

紆余(うよ)曲折を経て、"スポーツの祭典"が開幕するタイミングで、精神科医・スポーツメンタルアドバイザーの木村好珠(きむら・このみ)先生が初の著書『スポーツ精神科医が教える 日常で活かせるスポーツメンタル』を上梓(じょうし)した。

パラリンピック競技のブラインドサッカー日本代表をはじめ、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミー、北海道コンサドーレ札幌アカデミーなど、数々のチームでメンタルアドバイザーを務めるスペシャリストが、「組織の中でのメンタル育成術」を明かす。

(この記事は、7月19日発売の『週刊プレイボーイ31・32合併号』に掲載されたものです)

* * *

――「スポーツメンタルを一般社会や日常生活でも生かしたい」というのが、この本を書かれたきっかけだったそうですが、アスリートの抱える不安や悩みは一般社会で生きる人たちと比べ、特殊なものではないんでしょうか?

木村 他者からの評価も高く、勝負どころも多いので、アスリート特有の不安や悩みもありますが、根本的なところでは意外と一般社会で働く人たちとの共通点ばかりなんです。特にチームスポーツの選手と、会社で働く人は似ていますね。私はチームスポーツの精神科医として活動していますが、外来でアスリート以外の方とも接する機会が多いので、そう強く実感しています。

――組織の中で生きる日本人に共通する問題、ともいえそうですね。

木村 海外でメンタルというと脳を指すんですが、日本では心技体という言葉があるくらい心を大事にするので、私は「メンタル=思考と感情の組み合わせ」と定義しています。

日本には空気を読む文化が根づいているので、実は思考に関して悩む人はあまりいないんです。日本人って周りの空気を読んで行動することが得意なので思考は長(た)けているんですけど、そのせいで思考が暴走してしまう人もすごく多くて。そうなると思考と感情のバランスが崩れて、自分が何をしたいのかがわからなくなってしまい、心を病んでしまいます。

――会社などの組織で心を病んでしまうケースが多いのは理解できますが、チームスポーツの世界ではどういったカタチで顕在化されるものなんですか?

木村 例えば、監督の顔色ばかり見て、監督が好むプレーを選択し続けてしまうとか。そういう選手は目標や理想のプレーを聞いてもうまく答えられないことが多くて、なかには「監督はこういうサッカーが好きなんで」と答える人もいたりします。監督やチームという他人軸で動いてしまうので、「自分はどうしたいのか?」という自分軸で判断できなくなってしまうんです。



――アスリートは自我が強い人ばかりなのかと思っていました。

木村 もちろん、自我が強い人もいますけど、ネガティブなタイプのほうが多いですね。診察に行くと、「どうしたらポジティブになれますか?」と聞かれることが圧倒的に多いので。そう聞かれたら、「ポジティブになる必要はないですよ」って私はいつも答えています。

ポジティブと聞くと、どうしてもネガティブな感情を抱くこと自体を否定しているように感じる人が多いみたいですが、そうではないんですよ。とにかく、ありのままの自分の状況をしっかりと受け入れてあげることが大切です。「悔しい」「悲しい」「疲れてる」という感情を把握することで、「練習しよう」とか「休もう」といった改善策も考えられるので。いったん、ネガティブな感情を受け入れることが必要なんです。

――なんでもかんでも切り替えればいいってものでもないと。

木村 アスリートは試合でミスすると、そのまま引きずることがよくあります。「どうやって切り替えればいいですか?」と聞かれることも多いけど、試合直後だったら、ちゃんと悔しいと思ったほうがいい。そこで変に「悔しくない」とか「次、次」と切り替えても何も解決しないので。試合中はミスを引きずらないように切り替えるべきだけど、試合が終わった直後は振り返ったほうがいいんです。

振り返るときに大事なのは、できなかったことだけでなく、できたことも挙げること。どれだけ悪い日でも、何かしらよかったところはあるはずだから、それをしっかり拾い上げる。試合に勝っても負けても同じことをやると、自然と改善点が見えてくるんです。

――アスリートではなくとも、日常生活で生かせる考え方ですね。ほかにも一般社会で実践できるメソッドはありますか?

木村 今すぐ試してほしいのは「でも」「だって」「だけど」という「ダ行の言葉」を禁止すること。どれも否定語で相手を不快にさせるから使っちゃダメです。ちなみに「どうせ」は自分自身を否定する言葉ですよ。

――最後にいよいよ開幕する東京五輪について伺います。先生はスポーツの専門家でもあり、医療従事者でもありますが、率直に今の心境はいかがですか?



木村 もう開催が決まったのだから、今は全力で応援したいという気持ちですね。ただ、やるにしろ、やらないにしろ、もう少し早く決めてほしかった。

私が一番危惧してるのは、スポーツ自体のイメージがマイナスになってしまうこと。スポーツって本当は誰もが楽しめるものだし、人を勇気づけるものなのに......。オリンピック選手やパラリンピック選手の中には、世間に対して申し訳ないという思いを抱えている人もいると思うけど、私はそれが怖いんです。別に選手は悪くないし、むしろ被害者ですよね。

――実際に東京五輪に出場するアスリートともコンタクトを取られていると思いますが、どんな反応が多いですか?

木村 合宿中の選手とZoomで話しましたが、「オリンピック感が少ない」と言う人が多いですね。でも、それってある意味、日常と同じ目線に立てるということ。「変に構えることなく、平常心でオリンピックに挑むにはすごくいい環境なんじゃないか」と伝えています。

外的要素が多すぎる状況を仕方のないことと割り切って、いかに今できることに集中できるか。それができた選手が活躍すると思います。気持ちが少しでもザワついていたら、「自分は東京五輪に対してどんな思いがあるのか」「競技にどう向き合っているのか」を再認識できると冷静でいられると思いますよ。

■木村好珠(きむら・このみ)

1990年生まれ、東京都出身。精神科医、スポーツメンタルアドバイザー、産業医、健康スポーツ医。東邦大学医学部卒業。医学生時代に準ミス日本に輝き、芸能活動を開始。タレント業と並行しながら2014年に医師免許を取得。慶應義塾大学病院にて研修後、精神神経科に進み、現在は精神科医としてクリニックで勤務しながら、産業医として企業の健康づくりに携わる。筋金入りのサッカーフリークで、特にアカデミー年代のメンタル育成の普及に力を入れてきた。パラリンピック競技のブラインドサッカー日本代表をはじめ、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミー、北海道コンサドーレ札幌アカデミーなど数々のチームでメンタルアドバイザーを務めている

■『スポーツ精神科医が教える 日常で活かせるスポーツメンタル』

(法研 1650円)

「ここ一番で力を出せるメンタルを手に入れたい」という思いを叶えるヒントがギュッと詰まった一冊。著者はかつて準ミス日本に輝き、医学生アイドルとしても活躍した精神科医・スポーツメンタルアドバイザーの木村好珠先生。「大好きなサッカーに携わる仕事がしたい」という情熱を持って取り組んできたスポーツメンタルのメソッドを、飾らない言葉でやさしく、わかりやすくまとめた初の著書



撮影/苅部太郎

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