ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者が見据える、資本主義と日本の行く末

斎藤幸平氏

ベストセラー『人新世の「資本論」』の著者が見据える、資本主義と日本の行く末

7月20日(火) 8:52

提供:
気候変動危機や格差社会の根本原因は、資本主義にある―。経済思想家の斎藤幸平は、ベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)で厳しく批判し、解決策をマルクスの新解釈のなかに見出した。気鋭の俊才が見据える資本主義と日本の行く末とは?

◆コロナ禍で炙り出されたのは、資本主義が抱える矛盾だった

 経済思想家・斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』が30万部超と、経済書としては異例の大ヒットとなっている。

「人新世」とは、人類の経済活動が地球全体を覆い尽くした時代を意味する。際限なく経済成長を追求する一方で、格差の拡大に歯止めが利かない……資本主義の弊害を鋭く批判する斎藤氏には、資本主義の果実の分配を求める「投資」はどう映っているのか。そして、近年、日本でも急激に広がる格差を食い止める術はあるのか。

――コロナ禍で、テレワークできる人とできない人が生まれたのが象徴的ですが、格差の問題が過去にないほど噴出しました。

斎藤:コロナ禍で浮かび上がったのは、資本主義の2つの矛盾でした。第1の矛盾は、格差の拡大です。多くの店舗が営業自粛に追い込まれ、非正規雇用が簡単にクビを切られるなか、富裕層はますます富み、日本では上位50人の資産は昨年より47%も増え、1億円以上の資産を持つ富裕層は、昨年末に132万世帯を超えて史上最多となった。

 理由は、コロナ禍でも続く株高です。日本はコロナ対策の失敗から実体経済が大きなダメージを被っているのに、株価だけは上昇し、もともと莫大な資産を持つ人は一層富んでいった。一方で、これまでいくら真面目に働いていてもいきなり職を失ったり、出勤を減らされて給料が激減した人は非常に多い。こうした状況は、どう考えてもおかしい。

◆世界トップ10の富豪はコロナ禍で56兆円の利益

――海外に目を向けても、国際慈善団体・オックスファムの調査発表によれば、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツやテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクなど、世界の上位10人の富豪は、コロナ禍のこの1年だけで株価上昇などによって、56兆6000億円もの利益を得ています。

斎藤:このお金で、全人類76億人にコロナワクチンを接種できるというから驚きです。身分や立場に関係なく感染するウイルスは“平等”だというが、そんなことはない。

 医療や介護、ゴミ収集やスーパーのレジなど、私たちが日常生活を送るのに欠かせない仕事を担うエッセンシャル・ワーカーは、テレワークに切り替えることはできず、感染リスクに晒されながら日々働いているが、給料は安い。

 一方、テレワークが可能なのは、高給取りで経済的に余裕のある人が大多数でしょう。彼らは安全な自宅に閉じこもり、Uber Eatsやヤマト運輸に必要なものを運ばせ、“快適な日常”を、コロナ前と同じように過ごしている。

――コロナ禍で炙り出された第2の矛盾とは何なのでしょうか?

斎藤:いかに私たちの生活や経済が「破壊的」だったかということです。

 コロナ禍の遠因は、森林破壊に代表される地球環境の破壊にある。大量生産のために多くの資源を掘り返したり、食糧生産のための牧場や農地として森が切り拓かれていった。そして、奥地に土着していたウイルスを人間の生活圏に持ち込んでしまい、グローバル化によって世界中を人とモノが行き交う世界では、簡単にパンデミックを起こしてしまう……グローバル資本主義がこれほど発展しなければ、風土病のようにウイルスは外の世界に拡散されることはなかったはずです。

 ただ、問題はウイルスだけにとどまらない。近年、大きな問題になっている気候変動も、資本主義が原因です。何でも安く手に入り、便利な生活をもたらしたかもしれないが、その裏では膨大な温室効果ガスが排出され、日本でも大型化した台風によって夏の豪雨災害が常態化している。「100年に一度」の豪雨が毎週のように降るなど、悪い冗談のようなことが毎年起きている。格差拡大と環境破壊は、コロナ禍のこの1年で、日本でも無視できないところまで来ています。

◆明らかに日本人の意識も変わってきた

――この矛盾に多くの日本人は気づいていると考えますか?

斎藤:これまでは、日本人が便利な暮らしを送っているツケが途上国に押し付けられ、現地で劣悪な環境で低賃金・長時間の労働を強いられている人々がいる事実や、‌’18年に縫製工場で働く1000人以上が死亡したバングラデシュのラナプラザビル崩落事故も、どこか遠い国の出来事と受け取る人が大半だったでしょう。

 ところが、明らかに日本人の意識も変わってきた。それは、私の著書が注目された原因にも重なる。本のタイトルにある「人新世」とは、人類の活動が地球全体を覆い尽くした時代のこと。つまり、先進国が便利や安価といった恩恵を享受するツケを、途上国など外部に転嫁する場所は、もはや地球上にはないわけです。

 私たちの生活の「破壊的」な側面は、今までは途上国などに押し付けてこれたが、もう途上国も甘受することはできず、先進国に返ってきている。気候変動や格差はわかりやすい一例でしょう。

◆美辞麗句を並べて上っ面の対策をしても、問題は解決しない

――’30年までに気候変動や貧困への対策、不平等の是正など、17の目標を各国で達成しようというSDGs(持続可能な開発目標)が盛んに呼びかけられているのも、危機意識の表れに見えます。

斎藤:これまで目を逸らしてきたが、無視できなくなってきたからSDGsなどと言いだしたのでしょうが、この方法では格差是正や環境保護など不可能です。

 むしろ、問題の元凶は資本主義という本質を覆い隠し、人々が“やった感”を抱いて満足するだけになるのではないか。有史以来、人類が消費した化石燃料の半分を、’89年以降のわずか30年で使い尽くした事実を前に、今さらレジ袋を減らしたところで焼け石に水。EV(電気自動車)にシフトしても、充電する電気を作るのが火力発電だったらCOは減らない。

 美辞麗句を並べて上っ面の対策をしても、問題は解決しません。かつてマルクスは、資本主義下のつらい労働や生活といった現実から目を逸らす宗教を「大衆のアヘン」と批判したが、私はSDGsを「現代版・大衆のアヘン」と見ている。そもそも、資本主義を推し進めてきた張本人の先進国が、よくSDGsなどと言えたものです。

◆300円の牛丼のツケは途上国に転嫁されている

――ただ、グローバル資本主義によって、日本では安価にモノが手に入り、助かっている低所得者層が多いのも事実です。

斎藤:日本では、美味しい牛丼を300円で食べることができるが、これも資本主義の恩恵です。ただ、そのツケはブラジルに押し付けられ、肉牛の放牧と飼料の大豆畑のためにアマゾンの大森林が乱開発されている。1000円で手に入るファストファッションのTシャツも、海外の工場で低賃金労働に喘ぐ人が支えているのです。

 そんな現状で、「森林破壊を止めろ」「現地労働者の賃金を上げろ」などと言えば、今の恩恵を手離すことになる……つまり、日本が続けてきた外部からの収奪が、多くの日本人にとって“豊かさ”の条件になっており、システムに取り込まれてしまっているのです。ここから脱却しないと、格差はなくならないし、みんなで地球環境を考えようという気運も高まらない。

 そもそも、300円の牛丼を毎日のように食べなければいけないような賃金だったり、仕事を終えて帰宅しても食事を作る気もないくらい働かされていることに、気づかなければいけない。300円の牛丼を食べられる“豊かさ”に賛同してしまえば、自分たちに低賃金・長時間の労働を強いている企業には非常に都合がいい。企業がもっと賃金を支払えば、300円の牛丼はなくてもいいと考えられるようになるかもしれない。

 問題の根源原因は、個々の努力が足りないからではなく、今の働き方を強いている経済成長や利益追求ばかりを優先する資本主義にあることを意識してほしいです。

◆今後、競争はより激化していく

――SDGsも是正を掲げていますが、資本主義の下では格差の拡大は避けられないのでしょうか?

斎藤:マルクスはもちろん、世界的ベストセラーの『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティも、格差拡大は必然と言っているように、資本主義は必ず勝者と敗者を生み出し、勝者はますます取り分を広げていくシステム。だから、みんな勝者の側に入ることを望むし、チャンスは一応、平等に与えられている。ビジネスで一発当てたり、株に投資して大儲けして巨額の富を築く人もいるでしょう。

 ただ、一発逆転は、例外です。半世紀ほど前の日本なら、経済が大きく成長し、大きくなったパイを分配することで国民の暮らしはよくなった。一般的な会社員でも、一軒家を買えたわけです。ところが、30年間成長が止まった現在の日本では、今ある小さなパイの奪い合いが始まり、力の大きな資本と争っても個人は勝てない。

 今後、地球環境は苛酷になり、人口減少が進み、パイが縮小していくので、ビジネスや投資で成功するチャンスはますます少なくなる……そして、競争はより激化していく。

◆個人投資家が急増投資の理由は将来不安!?

――ところが、マネーフォワードの調査によれば、コロナ禍の昨年1年でネット証券の口座開設は240万を超え、新たに市場に参入する個人投資家が急増しています。

斎藤:チャンスが小さくなっているのに厳しい競争に参加する人が増えているのは、不安だからでしょうね。ふつうに働き、生活ができて、将来不安もなければ、リスクを取ってわざわざ株をやる人はそれほどいない。ところが現実には、フルタイムで働いても老後資金の2000万円を貯められず、自分の思い描く暮らしも送れていない……少しでも収入を補填したいという、切実な思いから投資を始めている人が多いのでしょう。

 悪いことに、投資をする人が増えると、株価上昇はよいことと考える人が増える。本来、株価の騰落に一喜一憂するのは、小口の個人投資家などではなく、大株主や経営者といった資本家階級です。ところが、ごくわずかな株を持つことで、個人投資家があたかも資本家と同じような気持ちを抱くようになり、ときには経営者のようなことを口にしたりする。そして、資本主義の矛盾や、資本家に自分たち労働者の生活が苦しめられている現実さえも忘れてしまう……。

 個人投資家の大多数は労働者で、本来、資本家と対立する立場であることを忘れてしまうのだから、資本主義にとっては実に都合がいい。個人投資家のなかには食費を切り詰めて、投資に回している人もいると聞きます。共働きで残業も目いっぱいして、仕事以外の時間で投資しているような人は、勤務中は企業の業績向上に貢献し、投資しているときは株価上昇に貢献……起きている間、ずっと資本の奴隷です。

 こうした人々は、資本家にすればもっとも統治しやすい。政府に格差是正を訴えたり、企業に賃金を上げろと声を上げることはないですからね。

◆3.5%の人々が立ち上がれば社会が変わる

――資本主義を鋭く批判しているだけ、個人投資家にも厳しく意見されると思っていたので意外です。

斎藤:資本家は滅びるべきですが、前述したように、不安や切実な理由から投資している人も少なくない。彼らがそうせざるを得ない社会のほうがおかしいのです。

 だから、300円の牛丼を食べ、NISAをしている人を、「資本主義の収奪システムに加担している!」と切り捨てるつもりもない。牛丼を食べていてもいいから「もっと給料を上げて、地球環境にやさしい食べ物を!」と声を上げてほしい。投資している人も「フルタイムで働いているのに、なぜ投資しなきゃならないんだ!」と怒りを覚えてほしい。

――とはいえ、資本主義という強大なシステムに闘いを挑むには、個の力はあまりに小さいように思えます……。

斎藤:確かに、個々の力は微々たるものでしょう。けれど、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によれば、3.5%の人々が非暴力的に本気で立ち上がると社会が変わるという。フィリピンのピープルズパワー革命やグルジアのバラ革命、NYのオキュパイウォールストリート運動も最初は数人で始まったが、世の中を動かしたのです。

 だから、私は不安から投資をしている人や、300円の牛丼を食べている人が立ち上がるのを期待しているのです。

◆多くの人が声を上げ、アクションを起こすことが必要

――日本の人口の3.5%は約430万人。著書があと400万部売れればいい計算です。

斎藤:全体の人口で考えると、多く感じてしまいますが、学校ならクラスに一人なんです。それに、本を読まなくても、このインタビューを読んで立ち上がってほしい!

――最後に、格差拡大や環境破壊を生み出す資本主義に対して、何か取り組んでいることは?

斎藤:電気をみんな電力の再エネに切り替えたりしていますが、1人ではさほど意味がない。個人の努力より、多くの人が声を上げ、アクションを起こすことで、社会を変えることができるのです。

【経済思想史研究家・斎藤幸平】
’87年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科経済学部准教授。ベルリン・ルンボルト大学哲学科博士課程修了。専門は社会思想、経済思想。’18年、マルクス研究の最高峰であるドイッチャー記念賞を歴代最年少の31歳で受賞。『人新世の「資本論」』は新書大賞

取材・文/齊藤武宏 図版/ミューズグラフィック 写真/時事通信社



【関連記事】
テレワークで残業代10万円が消えた。家計を維持できない“プア中流”の絶望
Fラン大学で人生がハードモードに。教育格差は自力で解決できない/ひろゆき
「崩れた寿司は自分で握る」フード配達員のヤバすぎる実情に唖然
所持金1万円で家出した20代女性も。急増する「若年ホームレス」の事情
「完全自殺マニュアル」鶴見済×プロ奢ラレヤーが語る、“贈与経済の今後”
日刊SPA!

生活 新着ニュース

合わせて読みたい記事

データが取得できませんでした。

編集部のおすすめ記事

データが取得できませんでした。
Ameba News

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ

Ameba News