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誰も降りない原宿駅の「謎のホーム」。その知られざる誕生のひみつとは?

5月23日(木) 21:45

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子どものころ、何としても行ってみたいところがあった。「謎のホーム」と呼んでいた場所だ。
 
当時、私は目黒駅近くに住んでおり山手線をよく利用していた。電車に乗ると外を見ないではいられなかった私だが、電車が混雑したホームに到着するのは嫌だった。前が見えなくなるからだ。
 
ところが、原宿駅には誰もいないホームがある。一体、あれは何だろう? そもそもどこへ行くのだろう。空想癖があった私は、きっと夜中に透明な列車がやって来て止まり、天空へ舞い上がって行くのだろと本気で考えたりしていた。
 


誕生日のプレセントは「謎のホーム」への旅
誕生日が近づいたある日のこと。私は両親にねだった。「誕生日に連れていって欲しいところがある」と。すると、父は「どこだ? 海外は無理だぞ」と、答えた。
 
「近所だよ、大丈夫。原宿駅の誰もいないホームに夜中に偵察に行きたい」。すると、父が教えてくれた。
 
「偵察? 駄目だよ。あそこは、皇族方の専用で、一般人は入れない。お召し列車用だからな。夜中に行ったりしたら捕まっちゃうぞ」と。心底がっかりする私を見た母は言った。
 
「お姉ちゃん(母は私をこう呼んだ)、そんなに行きたいなら、誰か皇族と結婚したらいいよ。たとえば、浩宮さまとか……。そしたら、どっか行くとき乗れるよ。そうだそうしよう。やればできるよ」。
 
浩宮さまとは、言うまでもないが、現在の天皇陛下である。子ども心にも「あり得ない」と、思ったものだ。
 
 
謎を解明するために
『天皇陛下と皇族方と乗り物と』(工藤直通・著/講談社・刊)は、皇族方の乗り物についての本だ。
 
著者は工藤直通。一般社団法人・日本新聞協会の監事をつとめ、特派写真記者として、乗り物関係の撮影と出版に関わってきた方だという。とくに、1984年にお召し列車の撮影を通じてからは皇室取材を重ねるようになり、今年の3月にその集大成というべきこの本を上梓したのである。
 
私はこの本が早く読みたくて予約注文した。正直に言うと、内容を知らずに買うには税別で5500円は高価かなと思いはした。けれども、原宿駅にまつわる謎を解きたいという思いが決心を促した。たとえ、謎のホームについて1行も触れていなくてもいい。そう覚悟して買った。
 
 
ホームにこめられた深い思い
謎は解けた。
 
それも、2ページにわたって私が知りたかったことが細かに書かれていたのだ。それだけではない。私がそこに立ちたいと願い続けた場所の写真も掲載されている。さらには、「えっ! そういうことだったのか!」という驚きの情報もあった。
 
私が勝手に「謎のホーム」と呼んでいたその場所は、正式名称を「原宿駅側部乗降場」というのだそうだ。側部ね。確かに、そうだ。
 
プラットホーム長は171メートル、御車寄を兼ねた駅舎建物を含む構内敷地は、JRと財務省(国有地)で区分所有する。この地に皇室専用駅を造るきっかけとなったのは、ご病弱だった大正天皇の東京駅や上野駅といった観衆の多い駅でのご乗降を避けるためであった。
(『天皇陛下と皇族方と乗り物と』より抜粋)

 
私は原宿駅を通り過ぎるたびに、「謎のホーム」はどこか不思議で神秘性をたたえ、寂しさに満ちていると感じていた。その思いを表現する言葉が見つからず「謎…」としか言いようがなかったのだが、『天皇陛下と皇族方と乗り物と』のおかげでそこにこめられた思いを知った。
 
結局、大正天皇がこの専用駅をお使いになったのは、大正15年の8月、ご静養のため葉山御用邸へ向かわれたとき、ただ一度だけだったという。
 
 
大正時代のバリアフリー
さらに、もう一つ、驚きの事実も知った。
 
車椅子に座られる大正天皇が、ご不自由なく御召自動車から御召列車へお乗り換えできるようにと「特殊な構造」を備えた専用駅だったのだ。
(『天皇陛下と皇族方と乗り物と』より抜粋)

 
つまり、車椅子をなめらかに進めるためにプラットホームに段差を設け、今で言うところの「バリアフリー機能」があったというのだ。できることなら、この夏、行われる東京オリンピックとパラリンピックで、世界に向けて原宿にあるお召し列車の専用駅が大正時代に造られたバリアフリー方式であることを示して欲しいと思う。
 
今もなお、原宿駅側部乗降場がきちんと保たれている。ということは、誰かが修繕し、清掃し、管理のための努力を続けてきたということだ。その方達の努力に報いるためにも、そう願わずにはいられない。
 
 
列車以外にも面白い話が満載!
『天皇陛下と皇族方と乗り物と』は。列車のことだけ記されているわけではない。平成の30年間、今は上皇さま・上皇后さまになられた両陛下は、様々な乗り物をご利用になった。
 
皇居の中に閉じこもることなく、海外親善や地方視察や被災地訪問に向かわれた。この本には、その際にご利用になった乗り物、馬車や鉄道、自動車、飛行機、船舶について、豊富な写真とともに興味深いエピソードが数多く綴られている。
 
そして私は、今とりわけ天皇、皇后両陛下がお乗りになる馬車に興味がある。これから行われる即位式の行事のひとつ「即位礼及び大嘗祭後神宮に親謁の儀」でも、馬車が使われるに違いない。
 
古式ゆかしい馬車は皇室が誇る美術品であると同時にすぐれた乗り物である。その華麗なる姿、そして馬という生き物を人が御しながら進む姿は、やはり美しいし神秘的だ。
 
新しい時代に向けて、これら乗り物がどう変遷していくのか、それとも変わらないのか、興味はつきない。
 
 
【書籍紹介】


天皇陛下と皇族方と乗り物と
著者:工藤直通
発行:講談社
初出しの貴重な資料、写真で伝える!! いにしえの御料馬車から御料自動車、お召列車、お召機、お召船まで、皇室の専用乗り物をすべて見せる完全保存版。
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