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東京大学赤ちゃんラボ・開一夫教授インタビュー ―― 話題の赤ちゃん絵本ができるまで

10月22日(月) 10:30

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東京大学赤ちゃんラボ・開一夫教授インタビュー ―― 話題の赤ちゃん絵本ができるまで
2017年7月に出版されて以来、テレビ番組をはじめ様々なメディアで紹介され、話題を集めている絵本がある。『もいもい』と『モイモイとキーリー』、『うるしー』の3冊だ。この絵本の監修を務めたのは、東京大学赤ちゃんラボの開一夫教授。絵本の制作には、赤ちゃんラボでの研究結果が活かされているという。いったいどんな研究を経て、どのように絵本がつくられたのか。赤ちゃんラボを訪ねて、開教授に制作エピソードを伺った。


開 一夫(ヒラキ カズオ)
1963年、富山県生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授。専門は、赤ちゃん学、発達認知神経科学、機械学習。東京大学赤ちゃんラボを運営し、赤ちゃんが本当に好きな絵本をつくりたいと「赤ちゃん学絵本プロジェクト」を立ち上げる。著書に『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』『赤ちゃんの不思議』(岩波新書)、『ミキティが東大教授に聞いた赤ちゃんのなぜ?』(中央法規出版)などがある。
東京大学 開一夫研究室
https://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/ja/top/
■書店の絵本コーナーで感じた違和感が、絵本づくりのきっかけに
―― 開先生は東京大学赤ちゃんラボで、どのような研究をされているのでしょうか。

開先生(以下、敬称略):20年ほど前から、赤ちゃんを対象にした脳と心の研究を続けています。発達認知神経科学と言うのですが、たとえば、赤ちゃんはどんな話し方を好むのかとか、お母さんの視線方向は赤ちゃんのこころの働きにどのように影響しているのか、といったことを、実験を通して科学的に解明していく研究です。

乳幼児や小学生とその親御さんのご協力のもと、研究室に来ていただいて、行動、視線の動き、脳波、脳の血流量の変化の測定など、プロジェクトに応じた調査を行っています。

―― 絵本のプロジェクトはいつ、どんな経緯でスタートしたのですか。

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開:10年以上前のことなんですが、書店に並んでいる絵本の帯に「赤ちゃんが選んだ絵本」と書かれているのを見て、違和感を覚えたんです。本当に赤ちゃんが選んでいるのか、と。「赤ちゃんは原色に目がいきやすい」とか「丸い形が好き」といったことは、赤ちゃんの研究をしていなくてもなんとなくわかることだと思いますが、本当に赤ちゃんが好きなものをはっきりと断定するのは、じつは結構難しいんですよ。

ほぼ完成形の絵本を赤ちゃんに見せて、どれがうけるか反応を見る、というようなことはやっているかもしれませんが、制作の段階から、しっかりした設備で実験を重ねながら赤ちゃんと一緒に絵本をつくる、というのは、きっとまだ誰もやっていないはず。それなら私が、これまでの赤ちゃん学研究の見地を活かして、赤ちゃんと一緒に赤ちゃんのための絵本をつくろう、と考えたのが、この絵本の企画のそもそものきっかけです。

それで、さっそく児童書の出版社に企画を持ち込んだのですが、当初はなかなか相手にされず……。でも4年ほど前、私の研究室で学んでいた学生からの紹介で、ディスカヴァー・トゥエンティワンの干場社長の賛同を得ることができて、ようやく絵本プロジェクトが始動することとなりました。

■赤ちゃんの好みを把握するために用いた方法とは?
―― 実際の絵本制作は、どのような流れで進んでいったのでしょうか。

開:赤ちゃんの反応を調べるために用いたのは「選好注視法」。2つ以上の刺激を提示して、視線がどこを向いているかをデータ化し、より長く見ていたものを選ぶ方法です。

4人のイラストレーターの方にご協力いただいて、「もいもい」という語感からイメージされる絵や、「うるしー」という名の見習い手品師の絵を描いてもらい、それを赤ちゃんに見せて反応を調べました。

―― 「もいもい」や「うるしー」といった言葉は、誰が決めたのですか。

開:「もいもい」というのは、赤ちゃんの好きなくり返しの音、声に出しやすい「まみむめも」の音ということで、私が選んだ言葉です。音の響きがかわいいでしょう。フィンランド語の挨拶の言葉でもあるんですよ。「うるしー」は私と出版社をつないでくれた学生、漆原くんのあだ名です(笑) 耳にしただけでは意味がわからないような言葉をあえて選びました。

―― イラストが揃ったら、いよいよ赤ちゃん審査員の出番ですね。

開:画面に絵を並べて、赤ちゃんの視線の見つめる先を、アイトラッキングという技術で追いかけます。「もいもい」「うるしーだよ」という声を流しながら絵を見せたときに、視線がどう変わるのか調べました。

対象とする赤ちゃんの月齢も試行錯誤がありましたね。最初は2歳くらいの子にも見せていたのですが、あまり明確な結果が得られなかったので、月齢を下げて実験を重ねていきました。最終的に、月齢8~13か月の赤ちゃんが示した調査結果をもとに絵本をつくることになったんですが、そこに至るまでに1年近くかかっています。

■赤ちゃんが選んだ絵で、赤ちゃんのための絵本をつくる
―― 赤ちゃんたちに選んでもらった絵をもとに、市原淳さんの『もいもい』、みうらし~まるさんの『モイモイとキーリー』、ロロンさんの『うるしー』という3冊の絵本がつくられたわけですね。

開:「ブーバー・キキ」呼ばれている心理学の実験があるんですが、直線からなるトゲトゲの図形と、曲線からなるふわふわした図形を見せたとき、多くの人がトゲトゲを「キキ」、曲線を「ブーバー」だと答えます。人は自然と、音と形のイメージを結びつけて考えるんです。

同じようなことを赤ちゃんにやってもらってできあがったのが、みうらし~まるさんの『モイモイとキーリー』。「モイモイ」という音を聞いたときに赤ちゃんが思い描いているであろう形のキャラクターが登場する、オノマトペの絵本です。

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『モイモイとキーリー』
作:みうらし~まる 監修:開一夫(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

―― 「うるしー」については、お母さんに人気の絵と、赤ちゃんに人気の絵がまったく逆という結果が出たそうですね。

開:そうなんです。私もお母さんたちが選んだ絵が一番「うるしー」らしいと思っていたのですが、大人がイメージする「うるしー」と赤ちゃんがイメージする「うるしー」はどうやら違っていたようです。

▼お母さんに人気mother

▼赤ちゃんに人気baby
興味深いですよね。赤ちゃんが「うるしー」と聞いてもっとも注視したのがロロンさんの描いた絵だったので、『うるしー』はロロンさんに描いてもらいました。帽子の中からいろいろなものが出てくるので、次は何が出てくるかなとワクワクしながら見てもらえたらなと思います。


『うるしー』
作:ロロン 監修:開一夫(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

―― 市原淳さんの描いた「もいもい」は、赤ちゃんの視線を最も釘付けにしたとのことですが。

開:もともとは、音にマッチした絵を赤ちゃんに選んでもらうことを実験の目標に、『モイモイとキーリー』と『うるしー』の2冊を出版する予定だったんです。ところが、音を流さずに絵を見せたとき、ほかのどの絵よりも赤ちゃんの視線を惹きつける絵がありました。それが、市原淳さんの描いた「もいもい」です。疑似的な目のようなデザインや、色のコントラストなどが、赤ちゃんの目を引いたんでしょうね。その注目度はほかの倍以上。これは見過ごせないだろうということで、こちらの「もいもい」でも1冊絵本をつくることにしました。


『もいもい』
作:市原淳 監修:開一夫(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

■絵本をツールにして、親子のコミュニケーションを楽しもう
―― 初版から1年以上経った今も順調に版を重ねていますが、どのように感じていらっしゃいますか。

開:テレビで紹介されたおかげもあって、たくさんの反響をいただいています。うれしかったのは、絵本をきっかけに赤ちゃんラボを訪れて、調査に協力してくださる方が増えたこと。本当にありがたいです。

―― この絵本の楽しみ方について、何かアドバイスはありますか。

開:大人も一緒に楽しみながら読んでもらうのが一番ですね。でも、声を高くしたり、ゆっくりと読んだり……といったことは、とくに意識しなくてもいいと思います。赤ちゃんに話しかけるときって、誰しも不思議と声が高くなって、抑揚が豊かでゆっくりとした話し方になりますよね。こういう話し方を「マザリーズ」と言うんですが、これは意識せずとも自然と口を突いて出るくるものなので、逆に意識しない方がいいんじゃないかなと。

赤ちゃんの時期に何よりも大切なのは、お父さんやお母さんとコミュニケーションをとること。お母さんやお父さんが、赤ちゃんと同じものに注目して、指をさしたり声をかけたりすることで、赤ちゃんのコミュニケーション力は育まれていきます。絵本はそのためのとても有効なツールなので、うまく活用してもらえたらいいなと思います。

加治佐 志津加治佐 志津
ミキハウスで販売職、大手新聞社系編集部で新聞その他紙媒体の企画・編集、サイバーエージェントでコンテンツディレクター等を経て、2009年よりフリーランスに。絵本と子育てをテーマに取材・執筆を続ける。これまでにインタビューした絵本作家は100人超。家族は漫画家の夫と2013年生まれの息子。趣味の書道は初等科師範。

「東京大学赤ちゃんラボ・開一夫教授インタビュー ―― 話題の赤ちゃん絵本ができるまで」記事詳細はコチラ


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