親知らずに詰まった食べカスをつまようじでつついていたら、突如として痛みと腫(は)れが出た、結局すぐに抜歯しなければならなかったと半泣きの同僚。痛みが強くなる前に、何らかのサインはないのでしょうか。歯学博士で歯科・口腔衛生・口臭外来の江上歯科(大阪市北区)の江上一郎院長に詳しいお話しを伺いました。
■親知らずは、きれいに磨くのが難しいからむし歯になりやすい
まず、親知らずが痛む経緯について、江上医師はこう説明します。
「親知らずとは、大人の奥歯の最も後ろに位置する歯で、永久歯の中で最後に発育します。名称の由来は、その昔、親が亡くなってから生えてきたからだという説もあります。
親知らずが生えることで急に痛みが起きるのではありません。親知らずが生えようとするときに、歯ぐきや周りの歯を押すために痛みや腫れが生じます。
それに、生え方によっては歯ブラシが届きにくくて、きれいに磨くのが難しいケースも多くあります。その場合はプラーク(歯垢)がたまって、むし歯や智歯周囲炎(ちししゅういえん)と呼ぶ炎症を起こしやすくなります。
智歯とは、親知らずのことです。
そうなると、歯がズキズキと痛む、歯ぐきや頬が腫れるだけでなく口が開かなくなる、発熱するなどの症状があります。
親知らずによる炎症は、歯周病と同じようにじわじわと静かに進行していますが、何かのきっかけがあると急に自覚症状が強く現れます」
次に、親知らずが痛む予兆をまとめていただきました。
1.これまでに腫れたことがある
親知らずの腫れは短期間で元の状態に戻ることが多く、治ったように思われがちです。しかし一度でも腫れたことのある親知らずの場合、完治したわけではなく、小康状態となっているだけです。やがてより大きな腫れとなって再発する可能性が高いのです。
2.奥歯に食べ物がはさまりやすい
親知らずが横向きや斜めに生えていると、食べカスがはさまりやすくなります。食べカスは細菌の栄養分になるので、歯ブラシが届かないなどの理由で放置すると、むし歯や周りの歯ぐきが腫れる原因になります。つまようじや歯ブラシで無理に取りだそうとすると、それがきっかけとなって歯ぐきが腫れ、痛み出すことがあります。
3.水やお湯が浸みる
むし歯が象牙(ぞうげ)質と呼ばれる歯の内層の組織や、歯髄(しずい)という神経近くにまで到達すると、冷たいものや熱いものが浸みるようになります。むし歯が進行しているサインです。
特に親知らずが横向きや斜めに生えて手前の歯に当たっている場合は、その手前の歯がむし歯になりやすくなります。
4.疲労やストレスがたまっている
疲労やストレスが蓄積して体の抵抗力が落ちると、慢性化した痛みや腫れが大きな諸症状となって現れることがあります。
江上医師は、歯科を受診するタイミングについてこう話します。
「親知らずに気付き、少しでも痛みや腫れ、違和感を覚えたら、まずは歯科に相談してください。親知らずの周りの痛みや腫れが強くなると、麻酔が効きにくい、傷の治りが遅くなる場合があります。
なお、親知らずが完全に骨に埋まっているが異常が見られないケースや、生え方によって問題がなければ抜歯の必要はありません」
親知らずは歯ぐきや周りの歯を圧迫し、むし歯の温床にもなりやすいことから、ちょっとしたきっかけで痛みを誘発するということです。痛みのサインを見逃さず、早めに対処することが肝心のようです。
(藤井空/ユンブル)
取材協力・監修 江上一郎氏。歯学博士。専門は口腔(こうくう)衛生。歯科・口腔衛生・口臭外来の江上歯科院長。日本口臭学会会員。
江上歯科 大阪市北区中津3-6-6 阪急中津駅から徒歩1分、御堂筋線中津駅から徒歩4分
http://www.egami.ne.jp/
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