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「金持ちが確実に世界を支配する方法」(富裕層本書評5)

10月2日(木) 13:20

 金持ちと一般市民は戦う宿命にあるのか。これまでに地球上で起きている出来事や事実を列挙しながら、金持ちが自分たちのより暮らしやすい社会を守っていくためには何をするのか。それを庶民の視点から描いたのが「金持ちが確実に世界を支配する方法」(岩波書店)だ。「1%による1%のための勝利戦略」が披露される。

 「階級闘争があると言いたいなら、そう言ってもいい。しかし戦いを仕掛けているのはわれわれの階級、金持ちの階級のほうで、勝利は目前だ」。

 これは最初のページに引用されている、資産6兆円以上の世界屈指の大富豪ウォーレン・バフェット氏の言葉だ。2006年11月26日のNYタイムズ電子版に掲載されているコメント。バフェット氏が支払う連邦所得税は毎年15~19%程度だが、同氏の事務所の従業員の税率はそれよりも高かったという事実からそのようなコメントになっている。

 しかも、長期投資による含み益は税金を生まず、亡くなる際にもおそらく財団などの基金に組み入れて寄付をして税金になることはないだろう。もちろん、ご存じのとおり、その後は富裕層の税率を上げることを自ら提唱しているのだが。

 このような挑戦的なコメントから始まる本書だが、「金持ちが確実に世界を支配する方法」というタイトルも実に刺激的。しかも、リベラルな発行物が多い岩波書店からの出版という点にも驚くが、すぐにその謎は解ける。

 著者はスーザン・ジョージ氏で、「なぜ世界の半分が飢えるのか」など反グローバリズムの旗手として知られる。事実に基づく架空の報告書というスタイルで、グローバル化された収奪のシステムを暴いていくという一冊となっている。つまり、一般市民の目から見た、富裕層が自分たちの秩序を維持していくためのシステムが描かれている。

 すべてを一言で表すならば、それは現状維持。というのも2007年、2008年の金融危機で減少したはずの富は元に戻り、さらに富を拡大させているからだ。本書では、その間には政府が金融機関に対して融資を行うなどして、富裕層を生きながらえさせたという内容の記述もある。つまり、上位1%にとってはその状態が最も良く、そのためにどうやって今のままの世の中を維持していくのか、現状を踏まえた提言が行われている。

 本書は、富と名声を手にした有力者たちがその維持のために「委嘱委員会」を設置。専門家らにスイスのルガーノの目立たない山荘で作業に取り組むという設定になっている。実社会のビルダーバーグ会議に似ていなくもないか。

 では、どのようなことが話し合われているのか。

 ここでは、「環境」「社会」「金融」の3セクションに分かれて現状の問題を討議している。

 ◆環境 自然の破壊こそ将来的な自由市場システムの最大の障害になる。経済システムの自然界のサブシステムにすぎないが、資本主義経済が自然に膨大な圧力を与えている。環境問題はまた、政治不安や武力紛争の増加にもつながる。

 ◆社会 競争経済からもっとも利益を得るのは社会の上層。経済的圧力と社会構造の不安定化が川なりあった現在は、大恐慌時代のような持てる者と持たざる者が分断され、インとアウトとの分断も起きる。

 ◆金融 大規模な金融アクシデントが発生する危険性は日増しに強まっている。どころか、まだ発生していないのが不思議。金融リスクに備える防衛手段のデリバティブが、今では逆にリスクを高めている。備えることも回避することも現状では不可能だ。

 この3つは、金持ちだけではなく実は全人類共通の問題でもある。解決方法など存在しないと言っているようなものだ。これらの要素は実は富裕層は興味を持っている場合も多く、富裕層との会話では話題にも上る。もちろん解決策がない以上、その場で答えが出るわけはないのだが。資産があるほど失うものが大きく、現状を守りたいと思う防御反応が働くのも仕方がないことだろう。

 また、メディアをうまく操縦して世論をうまく誘導することへの記述もある。あまり目立つ行動を取り過ぎては反発を買ってしまう。

 例えば、タイなどで代理母出産を行った大富豪の子息とされる人物は、法律面での逸脱はないかもしれないが、心情的に何やら違和感を感じてしまうのは一般層だけではないかもしれない。日本ではアンダーコントロールにあるかもしれないが、タイの現地メディアなどは警察が公開した名前と顔写真を報道しており、日本でも知らない人はいないだろう。

 このような反発を受けないように、いかに目立たず、現状維持を目指していくのか。それは金持ちが皆、考えていることだ。


 評価(5点満点):4.0 

 著者:スーザン・ジョージ 米国生まれ、フランス在住の政治経済学者。「なぜ世界の半分が飢えるのか」「これは誰の危機か、未来は誰のものか―なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか」などの著作がある。


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