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まんだらけに聞いた。手塚治虫も称賛、戦前・戦中に100冊刊行した伝説の出版社

9月5日(金) 19:00

日本の漫画は世界中の読者を魅了し、今や日本を代表する文化の1つとなっています。そんな日本の漫画界に大きな影響を与え、戦後漫画の創始者と評されているのが、「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」の作者である手塚治虫さんです。しかし、その手塚先生自身もまた、戦前の多くの漫画家に影響を受けていたようです。そこで、今回は、戦前・戦中刊行されていた漫画やその漫画家について、株式会社まんだらけ 取締役の辻中雄二郎さんにお話を聞いてみました。

■手塚先生以前にも多くの漫画家がいた!

――手塚治虫先生以前の漫画について、一般的にはあまり知られていないのですが。

辻中取締役 そうですね。現在の漫画はどの漫画でも手塚先生に「陸続き」になっている感じがします。しかし、手塚先生以前にも、実は多くの漫画家がいて単行本も刊行されていました。

――その方々の作品は今ではあまり知られていないですね。

辻中取締役 手塚先生以前、つまり戦前の漫画というと、多くの人が『のらくろ』を挙げるのではないでしょうか。のらくろは大日本雄弁会(現在の講談社)の『少年倶楽部』という雑誌で連載され、1932年(昭和7年)に初めて単行本が刊行されました。

そしてその翌年、1933年(昭和8年)に画期的な漫画単行本のシリーズが刊行され始めました。中村書店の「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」です。

■戦前・戦中を通じて100冊の単行本!

――それは、どのようなものですか?

辻中取締役 『有限会社中村書店』という、東京にかつてあった出版社が発刊したものです。「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」というシリーズで70冊、その後「ナカムラ繪叢書(えそうしょ)」というシリーズになって30冊、計100冊の漫画の単行本が刊行されました。

――100冊というのはすごいボリュームですね。

辻中取締役 はい。当時も最大手出版社だった講談社ですら、漫画の単行本を大量に発刊するという発想はない時代です。

先ほど申し上げた『のらくろ』などの単行本は刊行していますが、中村書店が刊行した同時期で比較すると、講談社は、おそらく30点ほどしか漫画は刊行していないでしょう。ですから、中村書店の試みは破格のものだったといえるのではないでしょうか。

■「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」100冊リスト

●1933年(昭和8年)刊行
No.1 愉快な探険隊 
No.2 チン太二等兵
No.3 しろちび水兵
No.4 忍術建チャン 
No.5 びっくり突進隊
No.6 冒険ターちゃん
No.7 猛獸國そこぬけ騒動
No.8 サーカス豆ちゃん

●1934年(昭和9年)刊行
No.9 魔法の昭ちゃん
No.10 兵隊ドンちゃん
No.11 チン太上等兵
No.12 トツカン水兵
No.13 ミッキーの活躍
No.14 ヒヨッコリ珍助
No.15 チビ聯隊長
No.16 カタカナ 漫画ノバクダン
No.17 しろちび漫画艦
No.18 勇敢ポンチャン
No.19 タンタラ漫画隊
No.20 コロコロ軍隊
No.21 無敵トンちゃん
No.22 海底王マーちゃん

●1935年(昭和10年)刊行
No.23 不思議な英雄
No.24 蛸の六ちゃん
No.25 魔のうでベッちゃん
No.26 大カバ凸凹聯隊
No.27 マンガ遊撃隊
No.28 魔術の剛ちゃん
No.29 天晴れカツちゃん
No.30 彈丸キンちゃん
No.31 探偵タンちゃん
No.32 漫画の星座
No.33 仙術王ゝ五丸
No.34 チョン太郎武勇伝
No.35 ハヤブサ探偵長
No.36 とんまひん助
No.37 忍術テク助漫遊記
No.38 まんが忠臣蔵

●1936年(昭和11年)刊行
No.39 小狸たんちん十二ケ月
No.40 大久保チョコ左衛門
No.41 まんが太閤記
No.42 まんが水戸黄門
No.43 まんが弥次喜多
No.44 一休和尚さん
No.45 まんが川中島
No.46 まんが眞田十勇士
No.47 まんが大江山
No.48 まんが宮本無茶四

●1937年(昭和12年)刊行
No.49 まんが大西郷
No.50 まんが荒木又右衛門
No.51 まんが牛若丸
No.52 土丹馬太衛門
No.53 まんが猿飛佐助
No.54 まんが清水次郎長
No.55 まんが發明探偵團
No.56 まんが近藤勇
No.57 まんが堀部安兵衛
No.58 北支戦線 快速兵ちゃん部隊

●1938年(昭和13年)刊行
No.59 そろり珍左衛門
No.60 トッチン部隊
No.61 上海南京 千里とっぱ部隊
No.62 日の丸軍事探偵
No.63 愛國漫画決死隊
No.64 半ちゃん捕物帳
No.65 チビスケ名探偵
No.66 北支漫遊けんちゃん親善部隊
No.67 人造人間のピン坊
No.68 忍術テレツクテン太
No.69 魔法のトムサム

●1939年(昭和14年)刊行
No.70 バリちゃん魔法部隊

「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」は上記の『バリちゃん魔法部隊』まで。
下記の『ドウブツ学校』からは「ナカムラ繪叢書」になります。

No.71 ドウブツ學校
No.72 象さん豆日記
No.73 大陸合笑隊
No.74 海陸たんけん隊
No.75 坊やの密林征服
No.76 ほがらか親善便り

●1940年(昭和15年)刊行
No.77 まんが大陸日記
No.78 愉快な子熊
No.79 アフリカ探険
No.80 コドモ海洋丸
No.81 火星探険
No.82 南極のペンちゃん
No.83 小馬ひん助
No.84 まんが良寬さま
No.85 まんが北極探険
No.86 火打箱
No.87 コドモ新聞社
No.88 ぼくらの燈臺

●1941年(昭和16年)刊行
No.89 愉快な鐡工所
No.90 野豚ものがたり
No.91 不思議な国印度の旅
No.92 仲よし日記帳
No.93 子供アジア號

●1942年(昭和17年)刊行
No.94 勇士イリヤ
No.95 五少年漂流記
No.96 繪物語 戰ふ勇太
No.97 雪國の兄弟

●1943年(昭和18年)刊行
No.98 繪物語 空の中隊
No.99 繪物語 小犬の從軍 
No.100 繪物語 富士の山

*......やむを得ず一部のタイトルで使われている旧字を常用漢字に修正しています。

■とても豪華な漫画本だった!

――「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」の特徴は、どのようなものでしょうか。

辻中取締役 まず、非常に力の入ったきれいな本だったことです。

・箱付き
・クロス加工
・B6ハードカバー

このような特徴を持つ「上製本」で、今からは考えれないくらい豪華な作りです。

――そうですね、今ではこういう漫画の単行本はないですよね。

辻中取締役 表紙のデザインもよくできていて、アール・デコ調といいますか、時代を感じさせるものになっていました。

――内容はどうだったのでしょうか?

辻中取締役 タイトルのラインナップを見ていただくとお分かりになるかもしれませんが、最初はドタバタしたギャグ的なものが多かったです。これが徐々に変わっていき、ナカムラ繪叢書になると、学習漫画のようなテイストの漫画が増えます。

――何か理由があったのでしょうか。

辻中取締役 おそらく当局(内務省など)から「このようなふざけた内容のものは時局にそぐわない」といった注文がついたのではないでしょうか。実際、当局が出版社を集めて、出版物の内容について議論を交わしたことがあります。

中村書店も1カ月に1冊といったペースで刊行していたのが、繪叢書になると刊行ペースが落ち、最後の年は3冊しか刊行できていません。当局の方針との兼ね合いがあったように思います。

――これらのタイトルの中には有名なものもあるのですか?

辻中取締役 最も有名なのは『火星探険』でしょう。これはSF漫画の先駆といえる作品です。手塚先生や松本零士先生が、その先見性、面白さを称賛されています。後になって、晶文社、名著刊行会、さらに小学館クリエイティブから復刊されたことでも有名です。

■大手出版社に対する挑戦だった!?

――「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」の意義をどのように考えるべきでしょうか。

辻中取締役 中村書店がこのシリーズを刊行したのは、おそらく講談社など大手出版社に対する一つの挑戦だったのではないでしょうか。大手のやらないことをやるという、ある意味マーケティング的な考えで作られたのかもしれません。

当時は、漫画の地位も今よりはずっと低く、小説などの文芸作品と比べれば一段下に見られていたと思います。ですから、今考えるよりもずっと大きな挑戦だったでしょう。

――なるほど。

辻中取締役 これらの作品を今読むと、後の手塚治虫先生をはじめとする戦後の漫画とは「陸続き」とは思えないかもしれません。それでも、その中から後の漫画家に影響を与える作品が生まれたのですから、「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」は、歴史的にも意味のある出版だったのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

空襲などの戦災で、「ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」はあまり現存していないそうです。特に60番台のタイトルは本当にレアだとか。日本の漫画史の貴重な1ページとして、未来に残していきたいものですね。


⇒『まんだらけ』の公式サイト
http://www.mandarake.co.jp/
ナカムラ・マンガ・ライブラリー」「ナカムラ繪叢書」100冊リスト
出典:『まんだらけZENBU』Vol.43(まんだらけ発行)

(高橋モータース@dcp)


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