歯ぎしりと言えば、ガリガリ、ギシギシと大きな音を立てて歯をこする……というイメージです。でも、「実際は、音を立てなくても、無意識に強く歯を食いしばっている、こすり合わせていることがあります。無自覚の人が多いんですよ」と説明するのは、歯学博士で歯科・口腔衛生外科の江上歯科(大阪市北区)院長・江上一郎医師。
歯ぎしりをしているかどうかを見分ける方法と対策について、お話を伺いました。
■起床時にあごが疲れる、肩こりや頭痛が多い
江上医師は、無意識の歯ぎしりについて、事例を紹介します。
「歯の定期検診時に、奥歯が一部だけ摩耗している患者さまがいらっしゃいました。『歯ぎしりをしているのでは?』と尋ねると、ご本人は自覚がなかったのですが、ご家族に尋ねられたところ、『毎晩歯ぎしりしているよ、気付いていないの!?』と驚かれたそうです。そういう方は多いんです」
次に、歯ぎしりのチェック法について、江上医師はこう話します。
「これらの項目に思い当たることはありますか?
・起床時に口の周囲がこわばる、あごが疲れる、だるい
・歯にひびが入っている、もしくは、擦(す)れて欠けたような歯がある
・口を閉じた状態で、口の中で上下の奥歯がくっつく
・パソコンの操作中や運転中など集中しているときに、無意識に歯をかみしめている
・頬(ほお)の内側にかんだあとや、舌に歯形(圧痕)がついている
・常に肩こりがひどい
・頭痛がひんぱんに起こる
・耳の下からあごにかけて、コリやすい
・冷たいものを口に入れるとしみる
どれか一つでも当てはまれば、歯ぎしりをしている可能性があります」
江上医師は歯ぎしりが起こる原因について、こう続けます。
「一種のクセと言われますが、眠りが浅いときに食いしばりや歯ぎしりをしている、と言います。必然的に、飲酒後や疲れているとき、心配ごとや悩みを抱えているなどメンタル面が不安定なときに出やすくなります。ストレスの発散で歯ぎしりをする、という説もあります」
では、歯ぎしりを放置しておくと、どのような影響があるのでしょうか。
「睡眠中や集中しているときなど、無意識のときは歯に自分の体重ほどの力が加わっていると考えられます。想像以上の強烈な力なんです。ですから当然、歯や歯ぐきにダメージを与えます。
歯が削れる、欠ける、割れる、だ液が出にくくなって口臭につながる、知覚過敏になる、歯周病が悪化するなどの原因になります。また、詰め物や差し歯、インプラントが壊れる、外れることもあります。
歯の病気に限らず、あごの関節がずれて痛む顎(がく)関節症や肩こり、頭痛、耳鳴り、目疲れなどさまざまな症状を引き起こします」
江上医師は、自分でできる歯ぎしりを改善するために、次の方法を挙げます。
・口の中でよく舌を動かして、口の周りの筋肉を和らげる(だ液がよく出る)。
・日中、歯をかみしめていると気付いたら、すぐに口を開いて呼吸をする。
・息をゆっくり吐くことを意識して深呼吸をする。
・寝る前1~2時間は、ゆったりリラックスをして自律神経を整えることを意識する。
・ストレスをためない生活を心がける。
歯科医院では、
・歯の詰め物部分を研磨するだけで、歯ぎしり音が改善されることがけっこうある。
・歯と歯ぐきへの影響が大きいときは、マウスピースを装着して症状を緩和する。
「これらを実行して、長い間悩んでいた歯ぎしりがよくなったという人は意外に多いんですよ」と江上医師。
人に指摘されないと気付きにくい歯ぎしり。改善をあきらめている人も、口の中のいろいろなトラブルを避けるために、まずはだ液の出具合チェックや深呼吸をすることを意識して実践しましょう。
(藤井空/ユンブル)
取材協力・監修 江上一郎氏。歯学博士。専門は口腔(こうくう)衛生。歯科・口腔衛生外科・口臭治療の江上歯科院長。
江上歯科 大阪市北区中津3-6-6 阪急中津駅から徒歩1分、御堂筋線中津駅から徒歩4分 http://www.egami.ne.jp/
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