突然のがん告知と余命宣告。大島康徳の「がんと共存する生き方」を支えた家族の絆
夫婦のカタチ2017年、Amebaブログで「ステージ4の大腸がん」であることを告白した、元プロ野球選手の大島康徳さん。
大島さんは“がんと闘う”のではなく、これまで通りの生活ができるように共存するという姿勢で、野球解説などの仕事をしながらの抗がん治療を続けています。
今回は、そんな大島さんとブログにも度々登場する奥さまの奈保美さんも一緒に、がんとの向き合い方や、夫婦円満の秘訣について伺いました。
大島康徳
元プロ野球選手
1950年大分県生まれ。中日ドラゴンズ(1969~1988年在籍)から北海道日本ハムファイターズ(1988~1994年在籍)に移籍し、当時史上最年長の39歳11カ月で通算2,000本安打達成。現役引退後は、北海道日本ハムファイターズの監督も務める。現在はプロ野球解説者として活動。
1950年大分県生まれ。中日ドラゴンズ(1969~1988年在籍)から北海道日本ハムファイターズ(1988~1994年在籍)に移籍し、当時史上最年長の39歳11カ月で通算2,000本安打達成。現役引退後は、北海道日本ハムファイターズの監督も務める。現在はプロ野球解説者として活動。
大島奈保美
1960年東京都生まれ。客室乗務員として働いていたときに康徳氏と出会い、1987年に結婚。2人の息子に恵まれる。そのほか犬と音楽と旅行を愛する一面も。週刊ベースボールで連載中の康徳氏のコラムでは「愛しの妻」として度々登場している。
1960年東京都生まれ。客室乗務員として働いていたときに康徳氏と出会い、1987年に結婚。2人の息子に恵まれる。そのほか犬と音楽と旅行を愛する一面も。週刊ベースボールで連載中の康徳氏のコラムでは「愛しの妻」として度々登場している。
突然のがん告知と余命宣告。拒否するつもりだった手術を受け入れた理由
市川
今日はよろしくお願いします。 先日、奈保美さんがメールで「遠慮なく何でも聞いてほしい」と伝えてくださったのが印象的で、身の引き締まる思いでした。
今日は臆することなく、お話を伺いたいと思います…!
市川
さっそくですが、まずはがんが発覚した経緯についてお聞かせいただけますか?
康徳さん
きっかけは、妻から言われた「ちょっと痩せたんじゃないの」という言葉でした。
当時はちょうどダイエットのため食事量を抑えていたので、最初はそのせいだと思ったんですが。
でも、妻が「その痩せ方は尋常じゃないか」と。それで一緒に検査に行きました。
市川
そのときは、まさかご自身ががんだとは…?
康徳さん
意識をするもなにも、俺にそんなことあるはずがないと。
僕は病院嫌いなんですが、健康診断は毎年受けていたんです。大腸がん検診で便に血が混じっていると言われたことはあったものの、再検査では問題なしでしたし、がんだなんて全く頭の中になかった。
奈保美さん
彼は元々痔持ちだということもあり、潜血反応はそのせいだろうとか、痩せたのはダイエット効果だろうとか、全部いい方にばかり捉えてしまってたんです。
康徳さん
それで、妻と一緒に行った検査で言い渡されたのが、がんの告知だったんです。
市川
全く自覚がない状態での宣告だったわけですね。
康徳さん
でも、全くショックは受けませんでした。だって、心の準備をして行ったわけじゃないですから。
いきなり「大腸がんです」と言われても実感が湧かなくて、「え?俺、がんなの?」という感じでした。余命1年だと告げられても、ショックというよりは「1年で何ができる?何もできないじゃん」と。
奈保美さん
私も、まさかがんだとは想像もしていなかったので、「がんです」「ステージ4です」と言われても、意味がわからなかった。
でも診断がついてからは、あっという間なんですよね。治療はベルトコンベアのようにどんどん進められて、がんが判明して2週間後には、手術を受けていました。
市川
発覚から2週間後には手術…!
告知から治療って、そんなスピード感で進んでいくんですね。
康徳さん
ただ、僕はもともと手術に抵抗があったんです。
もし手術によって仕事や日常生活に影響が出るなら、自分の人生がなくなってしまう。それだったら手術はしたくないと、拒否する気持ちでいました。
市川
それでも手術を受けると決めたのには、どんな後押しがあったんでしょうか?
康徳さん
告知を受けた当日、息子たちを前に気持ちが変わったんです。心配かけるわけにはいかないし、やらなくちゃしょうがないなと。
特に次男は、その日電車で号泣しながら帰ってきたらしくて。あまりにも泣くから、周りにいた車内の人がわーっといなくなったと言うんです。
康徳さん
それを聞いて、手術をする決意をしました。
一度は病院の先生にも「手術はしません」と言っていましたし、目を腫らせた息子たちの様子を見ていなかったら、手術は拒否していたと思います。
社会からフェードアウトする怖さ。がん公表に込めた「過剰な配慮」への思い
市川
手術後、康徳さんはブログでご自身ががんであることを公表されていますよね。
とても勇気がいることかと思いますが、なぜ公表を決めたんでしょうか?
康徳さん
最初から公表しようとは思ってなかったんです。
ただ仕事柄、人と会う機会が多いので、その度に、痩せた理由とがんの説明が必要になる。仕事を続けていくうえではきちんと公表した方がいいよね、と妻と話して決めました。
奈保美さん
そもそも「別に悪いことをしたわけじゃないんだから、病気を隠す必要はないよね」というのが、私たちの認識としてあって。
治療を続けるためには収入が必要だし、実際に主人のように抗がん治療を受けながら仕事をしている方もたくさんいるんです。
だから、ブログでそういう発信をすることは社会的な意義があるんじゃないか、という話もしましたね。
康徳さん
がん患者からすると、社会の“気配り的なもの”が、ちょっと過剰だと思うことがあるんです。
市川
過剰な気配り、ですか…?
康徳さん
例えば、仕事相手に病気であることを伝えた途端に「大丈夫です、大丈夫です」「お身体大事にしてください」と疎外されて、居場所がなくなってしまう。
病気をひた隠しにしてる人が多い理由には、社会からフェードアウトする怖さがあるんです。
奈保美さん
「治療に専念してください」というと聞こえはいいけど、患者さんを排除することにもなりうるんですよね。
がん患者に限らずですが、必要なケアがあればできる物事を「排除しちゃった方がラク」とする傾向が、今の日本にはある気がしていて。
でも、それは切り捨てることなく、社会全体で受け入れなきゃいけない。そう考えています。
市川
世間的に、患者さんや病気への理解が進んでいないことを改めて感じました。
がん治療と仕事を両立できることに驚く人も多い気がします。
奈保美さん
やっぱり、みなさんがイメージする「がん」ってあると思うんです。
康徳さん
「大腸がんといえばこう」「ステージ4だったらこう」と。でも「がん=こういうもの」という型はなくて、症状も治療もそれぞれ違うわけですから。
僕の場合、肝臓に転移はありましたが、「今まで通りに仕事をして、今まで通りの生活ができればいい」というのが肝心なんです。
がんの完治を目指すというよりも、今の生活を維持するための治療を続けています。
「今まで通りの生活を守りたい」大島康徳が選んだ、がんとの向き合い方
市川
がん治療において、康徳さんは「今まで通りに生活する」というスタンスでいらっしゃるんですね。
康徳さん
そう。今ままでの通りの生活ができればそれで良くて、「高額な医療費を出してでも完治させるぞ」という思いはないんです。これは僕の考え方で、もちろんそうじゃない人もいるでしょう。
がんとの付き合い方は、それぞれが自分で決めればいいと思っています。
市川
康徳さんが「今まで通りの生活ができればいい」という治療方針を選んだのには、何か理由があるんでしょうか?
康徳さん
病気を理由に日常生活を変えたくなかったんですよね。
僕はどちらかというと、ルーティンを一つ一つこなしていきたい人間なんです。
奈保美さん
野球選手としてずっとそういう生活をしてたから、引退後も変わらなくて。
朝、何時に起きて何を食べて、何時に出かけて、家に帰ったら何をして何時に寝るまで、今も全部一緒です(笑)
康徳さん
ルーティン通りに1日を終わりたくて。それがずれると気持ち悪いんだよ。
市川
引退後も変わらず⁉ それはすごい…。
実際、治療は希望通りスムーズに進んだんですか?
康徳さん
担当医の先生に僕の治療スタンスをきちんと理解してもらえたのは、2年くらい経ってからかな。
奈保美さん
がん治療って、メニューを見せられて「最初はこれにしますね。これがもし効かなかったら、次はこれです」って突きつけられる感じなんです。
だから、みんな「はい」って言うんですよね。
康徳さん
でも、僕は「嫌だ」と言うから、先生は「なぜですか?治療を辞めるんですか?」って。
そうではなく、「治療はするけれど仕事はしたい、普通の生活を守りたいんだ」ってことを理解してもらうまでに、時間がかかりました。
康徳さん
がん患者さんのなかには、ずっと提示されたレールに乗って治療をしていく人もいるんだろうけど、僕みたく「日常生活や仕事を大事にしたいから、この方針は嫌だ」と思い切って言ってもいいんじゃないかと思います。
病気との向き合い方には、正しいも間違いもありませんから。
奈保美さん
先生はあくまで「病気を治すための治療」を考える立場。だから、治療方針を決めるのに患者さんの生活スタイルまでもを考慮することは、まずないのが現状だと思うんです。
でも、医師の意見だけでなく患者さんの希望もふまえた、双方への理解が必要だと感じています。
「一生添い遂げるのはこの人」大島夫婦に聞いた夫婦円満の答えとは?
市川
康徳さんががんを告知されてから、ご家族の関係性に変化はありましたか?
康徳さん
妻に「体調が悪い、つらいなど素直に言って」と言われるのに僕が言わないから、それで喧嘩になることはありますね。
夫婦喧嘩の原因はだいたいそれです。
市川
康徳さんが言わないのには、何か理由があるんでしょうか?
康徳さん
いろんなことがあった現役生活を経ていることもあって、「たかだかこんなことで弱音を吐けるか」という気持ちがあるんですよ。
奈保美さん
いくら直して欲しいと言っても、だめなんですよね。そうやって生きてきちゃってるから。
せめて、調子が悪いときにはちゃんと言って欲しいとは何度も言ってます。そこは隠さないでほしい。
康徳さん
それはわかってるし、ささいなプライドだと言われればそれまでなんだけど、これはもう性分なんでね。
奈保美さん
主人のような男性に多いと思うんですけど、助けを求めずに、我慢しちゃうんですよね。
だから、家族が何か力になりたいと思っても、同じ立場で向き合えないつらさを感じるときもあります。
市川
家族には家族のつらさがあるんですね…。
お互いへの接し方で、何か意識されていることはありますか?
奈保美さん
病気のことは一旦抜きにして、普通に接しています。
私の体調が悪い日には、彼に買い物を頼むこともありますし、喧嘩などで機嫌が悪い日には、距離をとることもあります。
康徳さん
僕も、家族が患者に気を遣いすぎるのは、ダメだと思っています。そうしないと、気持ちのやり場がなくなってしまうので。
とはいえ、僕が退院してすぐは「もう何もしなくていいよ」と言われたり、気を遣われた時期もあったんですよ。
……でも、いつの間にかなくなったよね?
奈保美さん
ふふふ(笑)
市川
(笑)
どのようにして、気を遣いすぎない今のおふたりのような関係に戻っていったんでしょうか?
奈保美さん
告知からもう4年経つんですが、お互いにぶつかることが重なるうちに変わっていきましたね。
彼とぶつかったとき、自分の気持ちをどこに持ってったらいいかわからなくなって…
奈保美さん
でも私、友達や親には、絶対にそういう話をしないんです。
言われた相手も何を言っていいかわからないでしょうし、そのときだけの話で彼が「嫌な男だな」というイメージを残したくなくて。
でも今は、そういう悩みを子どもが受け止めてくれるようになりました。
市川
息子さん、頼もしいですね…!
康徳さん
やっぱり、子どもには救われたと思いますね。
これは僕が勝手に考えてるだけだけど、僕の病気を通して、きっとそういう絆みたいなものが生まれたんじゃないかなって。
その会話には入れてくれないから、わからないけどね。
市川
今日の取材でも仲睦まじい雰囲気のおふたりですが、夫婦円満の秘訣があれば教えていただきたいです。
康徳さん
円満どころか、毎日のように喧嘩してるよ!(笑)
市川
あっ、そうなんですね(笑)
おふたりが喧嘩したときには、どうやって仲直りされるんですか?
奈保美さん
2〜3日くらいは普通に無視しますよ。
康徳さん
妻が不満やストレスを溜めて爆発させる前に気づければいいんだけど、この性格だから。
加えて何もかも言えない性分ゆえに喧嘩もしますが、べったりせずにうまく距離をとってるからこそ、うまくいくこともあるんだと思いますね。
奈保美さん
夫婦円満……、なんでしょうね。
でも、一生添い遂げるのはこの人だと思っています。
奈保美さん
「仲がいいからずっと続く」とか「ここが許せないから離婚する」という考えはないんです。
楽しいときもあれば、腹も立つし、頭にくるけど…。そういうのも全部含めて、一生添い遂げるのはこの人。それは、もう死んでも変わらないという思いが根本にあるんですよね。
康徳さん
諦めの境地です。
市川
(えっ、そこは添い遂げる「覚悟」かと…!)
奈保美さん
いいときも悪いときもありましたけど、出会ってから今までをトータルで考えると、彼以上に長く一緒にいられるパートナーは見つからないと思うんです。
市川
そう思えるのって、素敵なことですね。
奈保美さん
そう、結婚してもう34年も一緒に生きてたから。
……これが諦めの境地か!(笑)
康徳さん
だから、ズバリ答えを出してあげたじゃない。気づくのが遅すぎるよ(笑)
康徳さん
だから、夫婦円満の秘訣は何ですかと聞かれれば、そんなのあるかいって(笑)
僕は、喋らないと機嫌が悪いとか怒ってるとかって思われがちなんですが、家族が楽しそうに喋ってるのを見るのが好きなんです。
奈保美さん
家族でご飯食べても、ひとりだけ喋らないもんね。
康徳さん
これまでずーっとそういう生活をしてきてるから、普段通りでいいんだよ。
過剰に何かを求めることもなく、見栄を張ることもなく、今まで通りの普通の生活を守っていきたいなと思っています。
最後はとっておきの仲良しショット。康徳さんが、自然かつスマートに奈保美さんを抱き寄せていました…!
途中、ちょっとした小競り合い(?)はありつつも、終始大島さんご夫妻の仲睦まじい関係や愛情深さが伝わってきた今回の取材。
「がんでも今まで通りの生活をする」という向き合い方を選んだおふたりは明るく、病気に支配されない深い絆を感じました。
長年連れ添い「これが諦めの境地か!」なんて笑いあえる夫婦カタチ、とても素敵でした!
<取材・文=市川茜/編集=Ameba編集部/撮影=長谷英史>