日刊アメーバニュース

「筋肉」が病魔と戦う? 運動で分泌される「マイオカイン」驚きの効能

2017年07月16日 08時01分
提供:デイリー新潮

 一昨年9月、胆管がんで亡くなった女優の川島なお美(享年54)が、死の直前になって、イベントに姿を見せたことをご記憶だろうか。心配していたファンは彼女の笑顔を見て胸を撫で下ろしたものだが、気になったのは異常に痩せ衰えた姿だった。また、同じ年の5月、大腸がんで亡くなった俳優の今井雅之(享年54)も、亡くなる1カ月前に開いた記者会見での痩せた姿に記者たちは言葉を失った。

 東京の江戸川病院で腫瘍血液内科部長を務める大澤浩医師が言う。

「がん患者の多くは病気が進行してくると骨格が浮き上がって見えるほど痩せ細ってしまうのです。これは悪液質(カヘキシア)と呼ばれる病態で、亡くなる前の川島さんや今井さんのお姿は典型的なカヘキシアと言えます」

筋肉からのホルモン

 なぜ、末期がんの患者は痩せてしまうのだろうか。原因は単に食欲が衰えるだけではない。

「病状が進行してくると、がん細胞は自分自身が生存するために骨格筋にため込まれているグリコーゲンやたんぱく質をエネルギー源として使いはじめるのです。筋肉が多い腕や太腿、腰回りがどんどん痩せて行くのはそのためです」(同)

 研究者が注目するのは、筋肉の急激な衰えが死につながっているという点だ。

 首都大学東京・大学院の藤井宣晴教授によると、

「がん細胞を移植し、人工的にカヘキシアにしたマウスに筋肉増強剤を投与してみた実験があります。筋肉増強剤を打たなかったがんマウスは筋肉が減少し、全部が衰弱死する。ところが、筋肉増強剤を打ったマウスはがん細胞が増殖しても筋肉量と体重が維持され、10%しか死ななかった。つまり、生存率が飛躍的に上がったのです。これは、がんに罹ったとき、筋肉が生命維持のために何らかの役割を果たしていることを意味しています」

 筋肉には体を動かすためだけではなく、病魔と戦う役割もあるのではないか。それが明らかになってきたのは最近のことだ。

「がんに罹っていなくても、運動している人は、将来のがん発症リスクが低いことが分かっています。これは、疫学調査のデータではっきりしている。さらに、2015年に『アメリカがん研究協会』などが、肺がんや食道がん、肝がん、乳がん、そして骨肉腫など少なくとも13種類のがんに関して、運動の効果が確実にあると医師会誌で発表している。世界的にも運動することにがん予防効果があることが認められてきているのです」(同)

 もっとも、運動とがんの関係はまだ不明なことも多く研究途上にある。だが、次第に分かってきたのは、筋肉から身体を守る有益なホルモンが出ていることである。それが「マイオカイン」だ。

糖尿病、脂肪肝、動脈硬化への効能

 筋肉から分泌されるホルモンを「マイオカイン」と呼ぶようになったのは05年のこと。コペンハーゲン大学のペデルセン博士が、筋肉からホルモンが出ていることを発見し、「マイオ(筋肉)」、「カイン(作動因子)」と名付けたのだ。これをきっかけにマイオカインの効能を解き明かす研究に拍車がかかる。

 例えば、「SPARC」というマイオカインは、大腸がんを抑制する効能があることが分かっている。筋肉で作られたSPARCは、大腸がん細胞を見つけるとアポトーシス(自殺)を働きかけるのだ。

 筋肉から分泌されるホルモンはSPARCだけではない。肥満や糖尿病を抑える「IL―6」、肝硬変につながる脂肪肝を改善する「FGF―21」、糖尿病や動脈硬化、さらにはうつ病やストレスにも効能のある「アディポネクチン」、ハーバード大学の研究チームが注目したのは、認知機能の改善につながる「アイリシン」。そしてアルツハイマー病の原因物質を減らす「IGF―1」といったマイオカインが次々と見つかっている。

「AMPキナーゼ」

 筋肉で作られる物質は他にもある。ホルモンではないため、マイオカインとは言えないが、日本人に多い2型糖尿病を抑え込む酵素が筋肉で生成されていることも分かっている。「AMPキナーゼ」と呼ばれる物質がそれだ。

「体内の血糖値が上がると膵臓の『ランゲルハンス島』からインスリンが分泌され、血糖値を下げます。2型糖尿病はこのインスリンがうまく働かず、糖の取り込みがうまくいかないのです。ところが筋肉で作られるAMPキナーゼは、血液中の糖を吸収して細胞内に取り込んでくれる。これが分かったことは医学的に大きかった。インスリンがうまく働かなくても糖尿病と上手に付き合ってゆけることが分かったのです」(前出の藤井教授)

 骨格筋が万能ホルモン・マイオカインやAMPキナーゼを作ることは分かった。分泌を促進するためには運動が必要なことも理解していただけるだろう。ところが、皮肉なことに現代社会は、逆に筋肉を使わないように“進化”しているのも現実だ。

 早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授によると、

「私たちの毎日はデスクワークなどが中心ですよね。すると、一日の多くを足を動かさずに過ごしているわけです。会社にいても大腿四頭筋もふくらはぎもほとんど使われない。また、家にいても体を動かさないで済むようになっている。テレビも洗濯機も照明もボタンひとつで、座りっぱなしで使えてしまう。そうやって骨格筋を使わないでいると、ただでさえ代謝機能疾患や神経器官疾患のリスクが高くなるのです」

 そう指摘されて、身に覚えのある人もいるのではないだろうか。

 ***

「週刊新潮」2017年7月13日号 掲載


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