日刊アメーバニュース

著名人たちも声を揃える、「介護殺人」を招く「在宅介護」の問題点

2017年04月21日 08時01分
提供:デイリー新潮

■他人事ではなかった「介護殺人」の恐怖(6)

 せめて最期は住み慣れた自宅で――。誰もが願うこのささやかな「夢」が、悲劇を生む引き金となり得るのだという。超高齢人口減社会のなかで問題視されている、肉親が肉親の命を絶つ介護殺人。介護体験者である著名人たちが、在宅介護の限界を指摘する。

 ***

「そらお金もあって、立派な家もあればアレやけど」

 その「介護殺人者」の女性(71)は呟いた。

「この間、テレビで介護の番組やっててんけど、癌の旦那さんを奥さんが看てて、最後は家でガリガリになって子どもや、孫に看取られて。最後の最後まで看るっていうんも、それはそれで大変やなあと。私みたいにああするのと、どっちがええんかなって……」

 間口が約2メートルしかない、「バラック」という言葉がしっくりとくる大阪府内の木造長屋。この古く狭い自宅で、彼女は認知症を患った夫を介護し続けた。金銭面だけではなく、「密室性」ゆえに精神的にも追い込まれていったであろうことは想像に難くない。そして2007年、彼女は介護に行き詰まり、夫の首をタオルで絞め、殺(あや)めた。

「最後の最後」まで、伴侶を在宅で介護したことはテレビ番組の内容と変わらないが、彼女は自らの手で夫の最後の最後を「勝手に」決めた。言うまでもなく重大な犯罪である。実際、彼女は殺人容疑で逮捕され、3年弱、刑に服した。だが、程度の差こそあれ「うさぎ小屋」で暮らす「我ら庶民」のどれほどの人が、うちは介護態勢が万全であると胸を張れるだろうか――。

■政府方針と乖離する「現場」の声

 これまで、昨年11月に小社が出版し、冒頭の女性も登場することで反響を呼んだ『介護殺人─追いつめられた家族の告白』(毎日新聞大阪社会部取材班著)に対する、著名人5人の「共感」の証言を紹介した。介護体験を持つ彼らが異口同音に語ったのは、愛するがゆえに身内の介護対象者を手にかける行為を、決して他人事(ひとごと)とは思えないというものだった。超高齢社会の日本で「日常化」し、厚生労働省も防止対策に着手し始めた介護殺人。現代の「日本病」とでも言うべきこの現象に関して、著名人たちがもうひとつ口を揃えたことがあった。それは、在宅介護の「限界」である。

 民主党政権下の2012年、政府は施設での介護よりも在宅介護に関する報酬を手厚くするなどして、「在宅シフト」を打ち出した。自民党が政権復帰して以降も、14年には厚労省が介護報酬改定の基本方針の中で「在宅介護の推進」を掲げ、また特別養護老人ホームの入所基準を要介護1以上から原則要介護3以上に引き上げる等々、「在宅介護圧力」を強めてきた。

 たしかに、「家族の世話は家族で」が基本であり、極力、人様に迷惑をかけないようにという考え方は、日本人の美徳のひとつと言えよう。しかし、介護を体験した「現場」の声は、政府の方針と乖離していた。

■認知症は「なった者勝ち」



「今、政府は在宅介護をすすめていますけど、現状は想像する以上に過酷です」

 こう主張するのは、脳腫瘍から認知症に至った母親を自分と同じマンション内で20年間介護した、俳優の奥田瑛二の妻であるエッセイストの安藤和津(69)だ。

「人は誰でも、住み慣れた家で家族に囲まれて最期を迎えるのが理想でしょう。一方で、介護することによって家族が摩耗し、疲弊して、介護者が自分を見失っていくという現実が存在します。真面目で、介護対象者を愛する気持ちが強いほど、介護者はすり減っていくのです」

 このすり減りによる介護対象者と介護者の共倒れを防ぐには、

「介護者が自分の時間を作ることが非常に重要なのですが、『この人(介護対象者)は苦しんでいるのに、置いてきぼりにして自分だけ楽しんでしまっていいのか』と、自責の念にかられてしまいがちになります」

 自身が介護殺人を夢に見てしまった彼女の凄絶な体験は第2回にある通りだが、現在、安藤はこんな結論を導き出している。

「無理して介護してもいいことはありません。介護者自身が笑顔でいられる介護が重要なんです。そうでないと、介護殺人に繋がってしまう危険性を否定できません。母の介護を通じて、変な言い方かもしれませんが、認知症は『なった者勝ち』だと感じました。私は、自分の娘たちに辛い思いをさせてまで介護されたくない。絶対に在宅介護は望みません。ですから、『私がボケたら、サッサとどこかの施設に入れて』と、家族には伝えています」

■安藤優子、荻野アンナも声を揃える



 同じく認知症の母親の介護を体験したニュースキャスターの安藤優子(58)は、用もないのに母親から30秒に1回は名前を呼ばれる過酷な在宅での介護を3年ほど経た後に、施設介護に切り替えた。

「在宅介護を始めた時から、いずれ無理が生じることは目に見えていたんですが、やはりどこかで『子どもが親の世話をするのは当たり前』という伝統的な価値観がすり込まれていたんだと思います。私たち姉兄を頑張って育ててくれた親を施設に入れることに、得体の知れない罪悪感があり、だからこそ在宅介護を限界まで続けてしまった。『介護殺人』に出てくる人も、みんな『SOS』を発することができずに、ギリギリまで頑張ってしまった人たちでしたよね」

 母親を約4年間、在宅介護した経験を持つ歌手の橋幸夫(73)はかつて、

〈昔は三世代で同居するのが普通のことで、老人の面倒を見るのは、子や孫にとって当然の務めでした〉

〈おじいちゃん、おばあちゃんがボケてきたら、助けながらいっしょに暮らしていけばいいんです〉

〈経済的な問題もありますが、在宅介護ができるなら、それに越したことはありません〉(「文藝春秋SPECIAL」14年春号)

 と語っていたが、現在改めてこう語る。

「身内が介護をすると、以前とすっかり変わってしまった姿を目の当たりにせざるを得ず、哀しくなり、悔しくなり、イライラします。僕自身、玄関にこんもりと大便を残すなどした、変わりゆく母の姿を見るのは本当に辛かった。しかし、一生懸命に介護しても認知症の介護対象者からは、労(ねぎら)いどころか罵声を浴びせられる。だから、在宅介護は難しいのではないかと今では思っています」

 もちろん、

「経済面や体力面などを考えて、余裕を持って介護できる家庭もあるでしょう。しかし、恵まれている家庭はごく一部で、『介護殺人』の方々がそうであったように、実際にはいろいろな問題を抱えている家庭のほうが多いわけです。今後10年で、ますます団塊の世代が介護される局面が増えていきます。このままでは、10年後には介護殺人がもっと発生している可能性が高いでしょう。常に家族の誰かが家にいて、介護を分担できた大家族時代に戻すのは非常に難しいわけですからね」

 こうして、体験者が声を揃える在宅介護の限界。他方で、第三者に預けるのもまた一苦労であることが、問題を複雑にしている。



 事実婚のパートナー、父親、母親と、3人の介護をした作家で慶応大学文学部教授の荻野アンナ(60)は、

「心不全の上に、認知症ではないものの忘れっぽくなっていた父親を病院に入れたんですが、今の日本の病院は、ある程度回復すると退院しなければなりません。だからといって、必ずしも次の病院を紹介してくれるとは限らない」

 として、こう振り返る。

「事実、父が91歳で入院した病院は、『前でひとり、後ろでひとりサポートすれば、お父さまは歩けるので退院しましょう』と言ってきました。すでに母は腰を悪くしていましたし、私も昼間は仕事ですから、そんなサポートはできません。『次に入るところを見つけてくれなければ、父をこの病院に爺捨(じじす)てします』と、主治医を“脅迫”して、何とか次のリハビリ病院を紹介してもらえましたが……」

 無論、介護対象者を預かるほうにも事情がある。

〈特養(特別養護老人ホーム)13% 空きベッド/民間調査 職員不足で対応困難〉(3月12日付毎日新聞)

 深刻な人手不足である。それも一因となって、

〈介護職員の虐待408件/15年度調査 高齢者被害9年連続最多〉(同月22日付毎日新聞)

 という事態に陥っているのだ。(文中敬称略)

 ***

(7)へつづく

特集「『橋幸夫』『安藤和津』『荻野アンナ』『安藤優子』『生島ヒロシ』他人事ではなかった『介護殺人』の恐怖」より

「週刊新潮」2017年4月6日号 掲載


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