日刊アメーバニュース

一冊まるごと「しか、しか、しか!」の写真集

2016年01月25日 10時00分
提供:Excite Bit コネタ

<ねこ派? いぬ派? しか派!!>
帯に踊る斬新な(?)問いかけに、ハッとする。
そんな「派」もあったのか!



そして、表紙に写る、まるでニッコリ笑みを浮かべているような表情の鹿を見ていると、思わず、言いたくなる。
「……しか派だったかも」
と。

写真集「しかしか」。タイトル通り、鹿の写真集である。
「鹿の写真」とひとくちに言っても、いろいろなアプローチはあるとは思う。山あいに棲む野性的な鹿、神の遣いとしての鹿、農作物に被害をもたらす害獣としての鹿、もちろんバンビ的キュートさをもつ鹿……。本写真集は、奈良公園周辺と広島の宮島、国内2大鹿と身近に触れ合える場所で撮影された写真で構成されている。どこを開いても、キュートな表情と仕草をみせる鹿の写真が登場する。鹿の「カワイイ」に特化した写真集だ。



撮影者の石井陽子さんは、奈良や広島在住というわけではない。では何がきっかけだったのだろうか。石井さんに聞いた。

「2011年の3月に奈良へ出張したときに、せっかくなので写真を撮ろうと、早朝、街に出てみたんです。すると、交差点の真ん中に立つ鹿のカップルと出会ったんです。その堂々とした姿に、人が消えた街を鹿が占領しているヴィジュアルが浮かびました」

「街の中に野生動物がいる」、というシチュエーションに、まずひかれた。そう言われてみれば、本写真集の写真には、人間は写り込んでいない。自動販売機の前の鹿、ビルの入口の鹿、工事現場の鹿、公衆トイレに入っていく鹿……そこに人間はいない。“鹿・イン・文明社会”といった、どこか不思議な光景が続く。



今回の写真集に収録されているのは、前記のとおり奈良と広島の鹿だが、石井さんはこの写真集には収録されていない他の地方に棲息する鹿の写真もたくさん撮影している。

「北海道の道東、宮城県の金華山、長崎の五島列島、沖縄の慶良間諸島などでも撮影しています。日本にいる鹿は、外来種のキョンを除くとすべて『ニホンジカ』なのですが、奈良や宮島の『ホンシュウジカ』、体長が最大の北海道の『エゾジカ』、最小の慶良間諸島の『ケラマジカ』、さらに『キュウシュウジカ』、『ツシマジカ』、『ヤクシカ』、『マゲシカ』の7亜種に分けられます」

同じ亜種のホンシュウジカでも、広島と奈良の鹿にも微妙に違いがあったりもする。
「奈良に比べると宮島は鹿の餌となる植物が少なく、餌やりも禁止されているので、体がやや小型化しているという説もあります」

写真集『しかしか』は、祖父江慎さんが装丁を手がけている。写真集のコンセプトも、祖父江さんのアイデアが活かされている。
「祖父江さんには、神の遣いとしての鹿、狩られる動物としての鹿、そして人間が愛着を抱くような『かわいい』鹿……私が様々なテーマで鹿を撮っていることを、初めて写真を見ていただいたときに見抜かれました」

そして、「まずは多くの人が共感を持ちやすいアプローチがいいだろうと」という判断に石井さんも賛同、判型やタイトル、書体にいたるまで、「カワイイ」にこだわった写真集ができあがった。
「『人と野生動物の関係性』のテーマのもと、奈良や宮島以外の地域での鹿についてもさらに撮り続けて、発表できるようにしたいと思います」

もっとも、鹿にはカワイイだけでない側面もある。今回の写真集では社会性を前面に押し出さなかった理由について、「とかく鹿は悪者にされがちですが、一度、ニュートラルな視点で見てほしいなと思ったんです」と石井さんは言う。
「奈良公園周辺では天然記念物として保護され観光客のアイドルになっている鹿が、他の地域では、農作物や森林を荒らす害獣として駆除されていることを知り、同じ動物でも棲んでいる場所によって人間との関係性が全く異なるという社会性にも興味をもつようにもなりました。『人と野生動物の関係性』のテーマのもと、奈良や宮島以外の地域での鹿についてもさらに撮り続けて、発表できるようにしたいと思います」



被写体としての鹿には、撮影に困る習性がある。
「鹿はほとんどの時間、下を向いて草を食べているので、顔をあげてくれるまで待つのが大変です。お尻を向けている写真は、祖父江さんに『鹿のふんの写真を撮ってきて』という宿題をいただいて撮ったものです」

今回の写真集の石井さんお気に入りのショットは、写真集の最後を飾る『こちらは出口です』と書かれたゲートから「入場」する鹿の写真。



「人間の決め事なんて関係ないという、涼しい顔をして入ってくるところが気に入っています」

そんな石井さんの写真展「境界線を越えて」が、1月19日まで開催された銀座ニコンサロンでの展示に続いて、大阪ニコンサロンで2月4日から10日まで開催される。
「写真展では写真集よりシリアスなセレクトになっていますが、鹿に込めたメッセージは同じです。写真集と写真展を見ていただくことで、重層的に鹿の魅力を楽しんでいただけたら嬉しいです」

石井さんは、今後も鹿の写真を撮り続けていく。
「鹿は古くから日本人にとって身近な動物で、いろいろな歴史や物語があります。また、鹿をめぐる問題は、人間と自然のかかわりを象徴する社会性もあると思います。そんな縦軸と横軸を組み合わせながら、いろいろな角度で鹿写真を続けていきたいと思います」
(太田サトル)





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